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E小説(中出し・孕ませ・時間停止・催眠・環境変化など)
エロ小説のサイトですので18歳未満の方はお帰りください。傾向はマニア向け、作品中のほぼ100%中だし妊娠描写、付属性として時間停止・催眠・環境変化などです。
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第一章「眠姫残酷」
 桑林一則。四十二歳独身、食品会社で資材課長を務めている。
 見事に禿げ上がったバーコードヘヤー親父である。若くもないので、若禿げというべきではない。ただの禿だ。あと短所をあげれば、アブラギッシュなデブで短足で加齢臭がする。しかも、生来の口下手のうえに、あまり親しくない人と話すと緊張してドモってしまうという会話のハンディキャップまで抱えている。
 別に統計を取ったわけではないが、社内の不人気男性職員ランキングを決めればダントツ一位に輝くだろうことは自他共に認めるところだ。
 本来なら、役立たずの社会不適合者一直線であり、リストラされて無職になったうえで「生きているのが嫌になった」と、放火をしたり山手線に飛び込んだりするところだが、社内で生き残っているのにはわけがある。彼には、たった一つ特技があった。
 それは、無駄に記憶力がいいという点である。いまより二十年前、普通に入社したものの深刻なコミュニケーション不全であることがすぐ発覚した彼は、まだ景気がいい時代ということもあり、すぐに首にならずに各課をたらい回しにされた。そうして、どうしようもない社員を押し込めておく、資材課で彼の才能は花開いた。
 特別なサイズの蛍光灯から、すでに資料保存期間を終えて、ほったらかしになっている過去の決算書類の一枚に至るまで。彼は、会社の倉庫の資料と資材の配置と場所を全て把握する記憶力を持っていたのである。
 何か入用なときは、彼に聞けばすぐに取り出してくれた。これは便利ということで、不景気になって資材課の仲間が、一人去り二人去りするリストラの嵐の中で、彼だけが生き残ってこれたのである。
 そうして、気がつくと資材課に一人ぼっちになっていた。それでも、彼がいれば仕事には支障がない。毎年たった一回、棚卸の時期だけが彼が地味に活躍するときであり、あとは決算時期に古参の事務員から見つからない書類を尋ねられたりする以外は、社内では空気として扱われている。
 そんな彼だが、なぜか社長からは縁の下の力持ちとして一目を置かれており、たった一人の部署なのに課長待遇で最低限とはいえ、管理職級の給料を貰っていた。一人身で金の使い道もないので、小銭も溜まっている。会社がもう少し大きくて、ちゃんとした資材管理システムが導入されていれば、彼の仕事はなくなって失業していただろうというのが彼に対する周りの評価であった。古い会社で、OA化が進まないおかげで辛うじて生きている、それが時代遅れのコンピュータ人間、桑林一則なのである。

 話は、そんな一則が新入社員だった総務部の早崎サオリに恋をしたことに端を発する。総務は、雑事的な仕事もあるので一番若いのサオリは、資材課にもよく訪れていた。会話も何度もしたことがある。全て「あれはどこにありますか」という仕事の会話だったが。他の女性社員が、必要なときにだけ明らかに嫌悪の感情むき出しで、必要最低限の会話を心がけているのに、サオリは新入社員ということもあったが、一則にも分け隔てなく話しかけてもくれる、会ったら名前を呼んで挨拶もしてくれた。
 若い女子社員というだけでも、小さな会社でサオリが歓迎される理由としては十分なのだが、少し小柄で目鼻立ちの整った可愛いタイプで、柔和で朗らか。相手を立てる、控えめで親しみやすい性格の彼女はとても人気があった。
 一則にとっては、彼が持つ女性への憧れを凝縮したような女の子に見えた。艶やかな黒髪を肩当たりまでさらりと伸ばして薄化粧、清楚でさっぱりとした面持ちの大人しい娘というのが一則の第一印象。しかも、話してみるときちんとした自分の考えを持っている芯の強い部分もある。きつい性格かと思えば、時折見せる優しげな笑顔が愛らしい。そして、一番のチャームポイントは、クリクリとしていて黒目勝ちな大きな瞳だろう。眉が若干太めなのもバランスが取れていて、サオリの容姿を引き立てている。一則は彼女を見つめていると、引き込まれそうな気持ちがした。
 そんな、サオリに一則が恋をするのは、まったくもって仕方がないことかもしれない。つりあいがとりようもないから、玉砕するに決まっているにしても、口説いてみたらいいじゃないかと普通は思うだろう。だが考えてみて欲しい、そんな勇気がないからこそ、彼は彼女いない暦四十二年なのだ。
 他の男性社員がサオリを口説いたと聞けばあたふたし、諦めきれずウジウジと彼女に付きまとい、鬱屈した性欲をストーカーという犯罪的な行為へと代えて、悪い方向に自分を駆り立てていく彼の姿はどこまでいっても浅ましかった。
 性格上の欠陥が招いた結果とはいえ、一則もストーカーに成り果てるとは自分でも情けなかった。このようにして、一則の密やかな悲恋は、どんどん悪いほうに転がり落ちていって、最後には何らかのちんけな性犯罪で会社を首になった上に逮捕という悲しい結末に終わってしまうかに見えた。

 そんなある日、一則はこんな小さな広告を見つけた。

『あなたの恋愛を必ず成就させます――性格改善コンサルタント事務所』

 この自分の鬱屈した性格と状況を変えたい、そういう一心で思い切って事務所の門を叩いたのだが返答は意外なものだった。

「あなたではなく、相手の性格を改善するのです」
 所長だという革張りの豪奢な椅子に腰掛けているまだ若い男は、そんなとんでもない話をしてきた。とても信じられない話だが、一則のような醜いおっさんにも、ちゃんと目を見て優しく話しかけてくれるこの人に任せてみようと思った。
「前金で百万、成功報酬としてもう百万です。払えますか」
 そういって、不敵に男は笑う。いきなり大金を要求されて普通なら怯むところだろうが、この日の一則には覚悟があった。本当にサオリが手に入るならその三倍出しても、いや自分の貯金を全部はたいても惜しくはないと、そこまで一則は思いつめていたのだ。ストーカーの執念というのは時にものすごい力を発揮する。
 前金の百万を払うと、男はすぐに動き出したみたいで、どうやったのかサオリの個人情報を調べあげてきてくれていた。
「あのでかい家に一人住まいです、結構な資産家ですね」
 そんなことは一則には関係ない。金が欲しいんじゃなくて、彼女が欲しいのだから。
「学生時代は、付き合ったことがあったみたいですよ二回だそうで、性交渉までいってますね」
 そうだよな、あんな可愛い娘だからと一則は落胆する。
「でも、いまはフリーみたいですね。おそらく両親が死んだ時期に前の彼氏と別れたので、そのことを引きずってしばらくは恋愛をする気がないのでしょう」
 おおーと、俄然意気が上がる一則。
「これから、彼女の精神は徐々に催眠に汚染されて現実から浮き上がっていきますからね。その状況をうまく利用できるかどうかはあなたしだいです」
 電話帳ぐらい分厚い大量の資料を受け取り、こんな面倒くさいことをしなくても、催眠術が使えるなら「ぼくを好きになる」とかけてくれればいいのにと、ぼやく。
「あなたが思っているほど……簡単なことじゃないんですよ、その資料ちゃんと読めばわかります」
 一則は、資料を丹念に三度も読み返し、できることとできないことを知った。
「仕事とはいえ、あなたみたいな人を手助けするの嫌いじゃないですよ。偽善の慈善よりはいくらか楽しい……土産話と一緒に成功報酬の百万を持ってきてくださるのをお待ちしてます」
 そういって、若い所長はやけに人懐っこい笑みを浮かべるのだった。

 催眠の効果があって、ガードがとても甘くなったサオリ相手に、下着に悪戯したり風呂場を覗いたりして楽しんだ、一則。とがめられないために、行動はドンドン大胆になっていって、ついには家に侵入して脱衣所で使用済み下着(青いレースの布パン)を一物に撒きつけて、しごいているところで、風呂上りのサオリに発見されてしまうのであった。
 まだ暖かさの残ったパンツに気を取られたのが敗因であった。絶体絶命のピンチといえたが、風呂上りで水気を含んでテラテラしているサオリの裸体をこんなに前でみるのは始めての経験で、極度の緊張もあいまって被せてあるパンツのクロッチの中で、さらに亀頭が膨れ上がるようにしてビクビクッとする一則。
 そのせいなのか、緊張なのか、すぐ弁明しようとしてやはりつっかえてしまう。
「桑林課長……」
「やっ……やあ」
 誰何の声に、なんとか挨拶するのが精一杯。
「ストーカーって、桑林課長だったんですか」
「ちが……違う! これは違うんだ……」
 すでに、催眠が始まってから一週間以上が経過している。マニュアルによれば、室内で出会ったとしてもちゃんと言い訳できれば錯誤させられるほどに進行しているはず。理屈では分かっても、本番で多少テンパってしまうのはしかたがないのだが。
「えっ……違うんですか、でもここは私の自宅ですから」
「そうなんだ、帰宅する途中にたまたま通りかかっただけなんだよ」
 ひどい言い訳もあったものだ。ふむぅと考え込むようにサオリは一則を見つめる。
「その、下半身を露出しているのはどういう」
「ああっ、ちょっと尿意を覚えて……おしっこをしようかと」
「……その、撒きつけている下着は私のですよね?」
「えっと、たまたま風で吹き飛んできたんだな」
「風ですか……」
 もうすこし、まともな言い訳を用意していたのだが、とっさにトンでもないことを口走ってしまった一則である。やはり、口下手が災いしている。
「そうそう……偶然」
 もう、半ば観念して頷くしかない。
「そういうことも、あるかもしれませんね。すいません、勘違いしてしまいました。最近、悪質な被害を受けているもので。会社の人を疑うなんて、私もどうかしてました」
 そうして、申し訳ありませんと裸のままで深々と頭をさげる。その拍子に、大き目のサオリの乳房がプルンと震えて、一則も股間を振るわせた。着やせするタイプだなと興奮する。ブラのサイズはEの六十五だった。普段大きめのサイズの服で目立たないようにはしているようだが、こうして裸を見ればマスクメロンのような手に余るほどの隠れ巨乳。
「いやっ、こっちも申し訳なかった」
 下半身むき出しでなにをいっているのか、一則もいつもの恐縮のポーズ。まあ、サオリも素っ裸なのでおあいこだが。
「あの、拾っていただいてありがたいのですが、その下着は私のですので返していただけませんでしょうか」
「あっ……気がつかなくて、ごめんごめん。はい」
 下着を一物から取り出して、裸のサオリに渡す。自分の下着をしげしげと確認してから、洗濯槽にほうりこんだ。勃起しすぎた股間を、隠すようにしゃがみこんでいたのだが、特にサオリはそれを気にしていないようであった。
「あと、ズボンをお上げになったほうがいいと思いますよ。ああ、そうだトイレでしたら、お貸ししますので使ってください」
 そういいながら、一則を気にせずにバスタオルで身体を拭き出すサオリに、お礼をいってトイレに入って、そこでトイレットペーパーで射精する一則だった。極度の興奮のため、一度抜いても中々勃起が収まらずに苦労した。

 これで、室内に入っても大丈夫と確信した一則はさらに大胆な行動にでる。退社の時間は、一般事務のサオリも倉庫番の一則もそう変わらない。慌てて倉庫を閉めてから、サオリの後を追いかける。いつもは、物陰に隠れて気づかれないように、歩いていくのだが今日は堂々と横を歩いていた。これなら、逆にストーカーあつかいされまい。
「あら……桑林課長」
「ああ、奇遇だね」
「あれ、おうちってこちらでしたっけ」
 小さい会社のことだ。サオリは総務で人事管理もやっているはずだ。保険の手続きか何かで、一則の住所を覚えてていたらどうしよう。訝しげな目をしてサオリは、一則を見つめる。その数秒がまるで、自分の嘘をとがめられているようで、一則は心の中で怖気づく。
「……そうなんだよ」
 怯える心を抑えて、そうなんとか一則は言いきってしまった。あとはサオリの様子をつぶさに観察。少し考え込んで歩いていたが、途中で何かを吹っ切ったように、納得してくれたみたいだった。
 だが、鍵を開けて家に入ると、そこまで一緒に入ってきたのにはサオリもまた少し驚いたようだ。
「あの……ここまで一緒なんですか」
「ほら、前にも早崎さんの家であったじゃない。ここが通り道なんですよ」
「あっ……そういえば、そうでしたね」
 そういうと、サオリは納得する。やれやれと、一則はなんとかうまくいったとほっとした。サオリはカバンを自室に置いてから居間に降りてくる。一則も、居間にいることにした。サオリは一則を監視するようにそこにいる、そこに座って二人とも無言。一度、納得してしまったのでサオリは一則がいることを気にもしてない様子だが、まともな神経を保っている一則のほうは、なかなか慣れない。
「あの……いつも、こんな感じなの」
「そうですね、いまはすることないですからね。そうだ、せっかくだからお茶でもお出ししましょうか」
「ありがとう、いただきます」
 お茶を入れてもらって、二人で啜る。サオリは気にしていないのだから、一則のほうもこの空気に慣れないといけない。サオリは、しばらくして無言で立ち上がると台所にたって夕食の準備を始めた。なるべく、栄養は偏らないように品目は多く作るが、一人で食べる分だけなのでたいしたことはない。
 それでも、一応食器に盛り付けて、居間で食べる。一則がじっといてみていたが、ご飯も食べますかとは聞かない。元来が小食なほうなので、余ってしまうがそれも持ちそうなものは朝食にまわして、駄目なものは捨ててしまった。
 サオリにとって一則は、お客様ではなくてあくまでもただ通りかかった会社の人なのだ。だから、お茶は出しても食事までは出さないという、サオリにとっては当たり前の対応であったが、距離が縮まっていると勘違いしていた一則は少しがっかりした。

 だが、こうしてじっと居間に座っているのに気にせずに普通の生活をしているというのは、逆に「暗示がうまく浸透している」とも考えることができる。これは、次の段階に入るいい機会と捕らえた。
 サオリが立ち上がったので、その後をつけるようにして、一則はついていく。
「あの……私、お風呂なんですけど」
 もちろん、いつも一緒の時刻に入るので当然知っている。
「ぼくは、通りかかっただけだから気にしないで」
「でも、その……なんで服をお脱ぎになって裸になっていらっしゃるんですか」
 そういって、不思議そうにサオリは聞く。一則はいまさら、裸が恥ずかしい歳でもないが、別に醜く肥え太った一則の裸体を見ても露骨に嫌悪を催している様子はなくて、やはり安心する。
「なんでって、脱衣所で服を脱ぐのはあたりまえでしょう。早崎さんも脱ぐでしょ」
「あっ……なるほど。そうですね気がつきませんでした」
 納得したらしく、サオリもさっさと普段着のトレーナーとジーンズを脱いで、下着も脱ぐ。真っ白い飾り気のないブラに、ピンクのパンティー。色が上下で違うのを間に合わせにしているのが、なんとなくサオリらしい。
 ジロジロと脱ぐのを観察しながら、一則は右手で勃起したチンコをさすっているのだが、サオリは特に気にした様子はなかった。そのまま、タオルも持たずにお風呂場へと入っていく。閉められた浴槽の戸を、ガラリと開けて一則も入る。家が広い割りに、浴槽はそんなに大きくない。後から改築したもののようで、タイルや浴槽はまだ新しいが。
「あっ……なんで入って」
「通りかかっただけ」
「その、なんで脱いで」
「お風呂で脱ぐのは当たり前でしょ。早崎さんも裸じゃん」
「あっ……そのとおりですね」
 この会話は、場所が変わるたびにやらないといけないのだろうか。一度納得してしまうと、サオリは気にしなくなるのでいいのだが。
 サオリがざっとかけ湯して、浴槽に入ったので一則もざぶんと入り込む。そのとたんに、浴槽のお湯が三分の一ぐらい流れ出てしまった。小さい浴槽に二人が入るには結構無理があるのだ。
「あのぉ……」
 またか「通りかかっただけ……」と、一則は言いかけたが。
「かけ湯しないで、浴槽に入るのはマナー違反だと思います」
「あっ……ごめん気をつけるね」
 いい大人なのに、二周りも下の娘に注意されてしまった。
 二人で入るには小さな浴槽の中で、一則は身長が高めで歪な肉団子のようなデブデブの身体つき。サオリは小柄だけど結構胸やお尻がでっぱっている。つまり、どうしても身体が触れ合ってしまうのだ。
 そうでなくても、熱いお湯のなかで桃色に染まるサオリの身体を見ていると、必要以上に身体をすり合わせたくなるのが一則だ。最初は、腕で偶然を装っておっぱいを触れる程度だったのが、だんだん手で太ももをこすりつけるように撫で始める。
「あの……」
「ああ、浴槽狭いから偶然当たってしまうのはしょうがないよね」
「それも、そうですね……」
 そういうと、サオリは一則に背中を向けて押し黙ってしまった。背中をスリスリと触っても、何も言わなくなったので後ろからおっぱいを鷲づかみにする。さすがは、片手では押さえきれないほどのボリュームサイズ。お湯に浮かぶだけのことはある。
 こんどは、外側から揉むのではなく、乳頭の先を弄るようにして揉みしごいていく。女性のおっぱいに触れるのも、一則はこれが始めてなのですこし乱暴気味だ。
「あっ……うっうっ……ん」
 時折、身をくねらせるようにして嫌悪感をあらわにするサオリ。でも文句はいわない。さらに、モミモミするとぴょこんと乳頭が立ったのを手で確認した。
「あっ……早崎さん乳頭立っちゃったね」
「…………桑林課長も、あそこ立ってるじゃないですか」
 恥ずかしかったのか、なんなのか。妙なことを言い返してくる。そりゃあ、一則のものは勃起しっぱなしだ。お腹の厚い脂肪に隠れてはいるものの、完全勃起状態になると一則のものはかなり立派で、黒々としていて堅くしかも亀頭の返しが広い、カリデカというタイプだ。
 もちろん、オナニーにしか使われたことがないので、こんな宝の持ち腐れは珍しいといえるだろう。
 一則は、浴槽をいったん出てサオリの前に回りこむと、首筋に口付けをした。いや、それは口付けなんて可愛いものではなくて、舌で舐め取るような感じだ。こんどは、ほっぺに。それでも、サオリが何も言わないので最後になめかましい桃色の口元にブチューという感じで、分厚い唇を押し付けた。
「んっん! ……いまのは」
 これにはさすがに、抗議の声をあげるようだ。
「偶然当たっただけだって」
「偶然だったんですね……分かりました。それならノーカウントですね」
 身体をジロジロと見られて触られているのが気にならなくて、キスで気になるなんてやっぱりウブなところがある娘だなと、一則は嬉しくなる。さらに、相手の口の中に舌を入れるようにして嘗め回す。ちなみに、これが一則のファーストキスである。
 歯を食いしばって一則の舌の侵入をこばんでいるので、ディープはできないが、それでも歯茎の周りの唾液と口の内側の粘膜を丹念に舐め取っていく。すでに、納得しているのでサオリは、なるべく口をそむけるようにして気にしないようにするだけだった。
 今度は、お湯に浮いている右乳を持ち上げるようにして、乳頭に吸いついた。コリコリとする乳頭の感触を楽しむようにすると、こんどは左乳。同じようで、少し違いがあるような気もする乳全体を口に含んで楽しむと、最後にカリッと軽く噛んだ。
「いっ……」
 乱暴な一則の行動にも文句は言わない。そうすると、一則は極度に興奮してこんどはサオリのオマンコに手を伸ばす。もちろん、濡れてなどいない。でも太ももから、薄い毛の生え揃っている股をさするようにして触れると。
「どいてください……」
 そういって、サオリが押しのけるようにして湯船から上がった。
「どうしたの、早坂さん」
 焦って一則が声をかける。
「頭と身体を洗うだけですよ」
 そういって、ゴシゴシとシャンプーをし始めた。別に大事なところに一則が触れたから逃げたというわけではないらしく、それにほっとする。
 気を取り直して、一則も湯船からあがった。シャンプーをしている、サオリに覆いかぶさるようにして、チンコを背中に押し付けてみる。
「あの……髪を洗ってるんでよくわからないんですけど、背中になにかあたるんです」
「ああ、それぼくのチンコ」
「チンコ……ああ、なるほど。……って、ちょっと!」
「いや、偶然だよ。偶然」
「そんな偶然ってあるんですか」
 聞き返してきた。
「ぼく、浴槽ではいつも床オナニーをするのが習慣なんだ」
「なんですか、その床おな……って」
 なかなかにサオリは冷静である。背中に凶器を押し付けられて、こすりあげられているのに、平気で髪を洗っている。
「床にチンコをこすり付けて、オナることだよ」
「男の人ってそんなことするんですか」
「で、床に当てようとしてるんだけど狭いから偶然、早崎さんの身体に当たってしまうんだよ」
「ああ、そういうことですか。なら、しかたないですね」
 お許しが出たので、背中を中心に擦りあげる。ドンドン下へ下へと降ろしていって、お尻の間に挟んでしまう。すでに先走り液ドロドロだから、すべりのいいこと。
 本当は挿入してしまいたいのだが、普通の浴槽の椅子に座ってるし、太ももをぴったりと閉じているので無理っぽい。尻の間の感触を楽しむようにして、なるべく桃色の肛門辺りをグリグリとしながら、一則は感極まってピュルピュルと射精し始めた。
「あっ……あっ、出る……いい!」
 いつもの習慣で、出すときに声を出してしまう一則。お尻から弾け飛ぶように、上に振りあがった一則の立派なチンポは、背中にも振り掛けるようにタップリとドッピュドッピュと白濁させて大満足。
「あっ……間違って、私のお尻にこすり付けて出しちゃったんですか。しょうがないですね、とりあえず後ろからお湯かけておいてください。後でどうせ身体を洗いますから」
 精液のたんぱく質は、お湯をかけると固まるのだ。それを一則も指示をだしたサオリも知らなかったわけで、プルプルに固まった精液が、サオリのお尻の付け根と背中にかけてドロドロニュルニュルと付着していた。

 女性が髪を洗い終わるのには時間がかかる、ようやく髪を洗い終えて、射精された自分の背中やお尻に手をやって「あぁー汚された」と落胆したような鈍い声をあげているサオリ。糊のように張り付いてしまった一則のたんぱく質を手で丹念に剥ぎ取るようにしている。一則もついでだとばかりに、シャンプーを取って手早く髪を洗い上げた。
 まえにもいったが、一則の髪は悲惨なほど薄い。しかも脳天は完全なツルッパゲ。だからほんの何分で完璧に洗えてしまう。能率的悲劇といっていい。いや悲劇的能率の良さというべきか。
 身体にボディーソープをつけて擦り始めたサオリを見て、一則は声をかけた。
「身体洗うのに、タオルつかわないんだ」
「手で洗うと、肌がつやつやになるんですよ」
 なるほど、色んな美容の方法があるものだ。一則なんかワニのような肌なので、タワシで洗ってもいいぐらいだが。
 一則は、サオリのそのつやつやの肌の上で泡立っているソープを擦り取って、自分の身体に擦り始めた。
「あのなにを」
 ああ、これがいつもの洗い方なんだよと一則が説明すると、すぐ納得する。一人では到底できない洗い方なのだが、そこまで疑わないのだろう。
 泡を取るというより、やっぱり胸や太ももを揉んでいるに等しい。当然身体を洗っているのだから、太ももの付け根の大事な部分も開いて、そこからも念入りに泡を取る一則だった。なんかまた、興奮してきたようだ。
 突然立ち上がると、サオリの前に仁王立ちになって立ち上がって、股間のものもまた立派に立ち上げさせる。
「ちょ……どうしたんですか」
「調子がいいときは、二回目のオナニーをするんだ。ちょうどこうやって、部屋の端から真ん中にゆっくりと歩いていって」
 そういいながら、一則はさっきサオリの股間からとった泡を自分の股間にこすりつけるようにして、どんどん顔に近づけていく。
「あっ……やっ……」
 黒光りした勃起チンコが、ピトンとサオリの顔に引っ付いた。というか唇の辺りに、強引にグリグリと押し付けているといったほうがいい。
「ああっ……気持ちいい」
「もうっ!」
 そういって、軽く振り払ったサオリの手がぐにゅっと一則の勃起チンポに当たって、擦りあげるような形になった。
 それで、「出る!!」とサオリの顔に向かって、黄みばしった精液をドッピュドッピュ! 吐き出し始めた。
「きゃっ……わっ」
 変な悲鳴をあげて、手で止めようとするが顔にもべったり手にもべったり、二回目だというのに、さっき出したのと増さず劣らずの射精時間と勢いとすさまじい量、四十二という年齢を考えれば、かなり立派なものだ。
 何度も言うようだが、宝の持ち腐れとしかいいようがない。
「ふぅ……ごめんね、偶然当たっちゃって」
 たっぷりと、射精して、萎えたチンポをやっぱりサオリの髪にこすりつけるようにしている。顔はともかく、髪にまじってしまうと後が大変だろうに、かわいそうなサオリは「偶然……偶然だからしかたがない」とか、ぶつぶつと呟いて顔を再度ボディーソープで念入りに洗っていた。
 二回出して満足したのか、一則はそれで風呂からあがって家に帰っていった。なぜか偶然間違って、サオリの今日穿いていたピンクのパンティーを装着してしてから帰るあたりが一則らしかった。
 それにしても、あれだけ出してまた自宅で、盗んだパンツをネタにやるつもりだとしたら一則は異常性欲の域に達しているのではないか。それとも、不惑の歳を過ぎて、晩年に燃え盛った恋が、彼の性欲に力を与えているのだろうか。そう考えれば理解も出来る。彼が子孫を残せるかどうかは、いわばここがラストチャンスとはいえた。

 次の日、またいつものようは平日。会社の倉庫の片隅で、雑事を整理しながら一則はワクワクしてしかたがなかった。昨日の風呂場でのことを思えば、もうこれは完璧にやってしまっても大丈夫ってことだった。
 今日という日に、サオリが備品を取りにきたのにも、天の配剤を感じる。コピー用紙を渡しながら、サオリにとっては普通の日でも、今日は一則にとって運命の日になるという確信があった。地味な黒い事務服を着て、お礼をいって帰っていく彼女の背中に。
「今日は、ぼくたちが結ばれる日なんだよ」
 そう、小さな声で声をかけた。
「なにかいいましたか?」
 聞こえたらしく、サオリが振り返ったが、なんでもないといってニヤける一則を不気味なものを見るような目でちょっと見て、サオリは去っていった。

 仕事が終わると、一則はサオリと一緒には帰らず、ひっそりと駅前の裏口にあるアダルト専門ショップへと入った。品揃えが豊富で、一人エッチ用のオナホールも上級者用が取り揃えられていて、よく一則はこの店を利用していた。この男は、実はラブドール(高級ダッチワイフ)すら所有しているのだ。今日の目的は、二人で使うためのSM用品であった。
(こんなものこのデブ中年が、誰と使うんだろう)
 そんな訝しげな目で店長が観察していたが、時折来ては、大人買いをしてくれる一則は大のお得意様なのでもちろんそんなそぶりは見せない。拘束具や特殊なアナルバイブなど、それを収納するカバンまで一緒に購入していった。ありがたい客だった。
 奇しくも、この表の店がサオリがこのまえ下着を新着した激安下着専門店で、実は経営者は一緒であったりする。別に関係ないといえばないかもしれないが、それは面白い偶然で、運命があるという一則の言い分も間違ってはいないのかもしれない。

 重たい荷物を抱えて「ハァハァ」と息をしながらようやくサオリの家へとやってきた。閑静なのはいいのだが、街中からちょっと歩いてかかるのがやっかいだ。一則は車の免許をもっていないから、だけどタクシーを使うほどの距離でもないのだ。
「まあ、これからぼくも少し体力をつけなきゃいけないからな」
 若い彼女を作るのだ、肥え太った身体はすぐにはどうにもならないだろうが、せめて運動不足ぐらいは解消していかなければならない。やれやれと、重たいカバンを置いてとりあえず軒先に隠しておいた。サオリの家は広いから、あとで押入れにでも隠しておけばそうそう見つかるものでもないだろう。
 すっかり暗くなってしまった。合鍵で玄関を開けて、居間に入るとちょうど食事中であった。お茶はもらえるが、食事はもらえないのが一則の立場であるから、ちゃんと抜かりなく途中のコンビニで夕食は買ってきてある。
 サオリは、一則が居ることは納得しているので声もかけない。特に会話もなく「通りすがり」の一則とサオリは食事を終えた。

 一則は常にサオリのあとをついてまわる。サオリがトイレの扉に手をかけると、中に入ったが一則の巨体が扉に挟まっていてしまらない。
「あのっ……私トイレに入りたいんで」
「ぼくもトイレに入ろうと思いまして」
「じゃっ、じゃあ、お先にどうぞ」
 当然といえば当然の反応だ。一則はしばし無言で、やはりサオリさんどうぞと後ろに下がったので、サオリは安心して扉を閉めて、洋式便器のまたがりジーンズと青いパンティーを降ろして「ほっ」と息を吐く。もちろん、ノブを回して水を流しながら音消しをする。扉の前に一則がいるかもしれないのだ。
 水の流れる音にまぎれるようにして、下腹部に力を込めておしっこをした瞬間、ガチャリと鍵をかけたはずの扉が空いて一則が入ってきた。
「あっ……ぎゃあああ」
「ああ、これは失礼」
「やっ、やだ」
 女性のおしっこというのは途中で止まらないのだ。シャアァァァと堂々と大また開きで一則の前で放尿する嵌めになってしまう。どうしようもないので、サオリは真っ赤になった顔を手で覆った。
「鍵が空いてたんですな、不幸な事故というものです」
 そんなわけもなく、本当は古いトイレの鍵だったので爪でひっかけて強引に開けたのだ。
「それならしょうがないですけど、見ないで……」
「このまま、おしっこしますね」
 そういって、一則もポロンとズボンとパンツを下ろして、おしっこを噴出しているサオリのオマンコにめがけて放尿した。
「いやっ……なんてことを」
「トイレだからおしっこするのは、あたりまえですよ」
「そっ……そうなんですか」
「ほら、早崎さんのおしっことぼくのが交じり合ってますよ」
「最悪ですね」
 先に、サオリの小水が終わった。サオリは、トイレットペーパーを千切って自分の股間を拭く。その様子を見ながら、一則は自分のチンポを右手で擦り始めた。小水を終えて、ズボンをあげようとしたが、パンツごと体重をかけて一則が踏んでいるので上がらない。そうして、はっとサオリは目をあげて、一則がオナニーを始めているのに気がついた。
「なにしてるんですか!」
「おしっこのついでに、オナニーするときもありまして」
「ちょっと、どいてくれますか」
「ああ、足で踏んでましたね。すぐ終わりますから、そのままそのまま」
「あっ……なに私の胸を揉んでるんですか」
 右手でチンポをさすりながら「ハァハァ」とTシャツごしに左手で、サオリの胸を揉み始めた。
「ああ、水を流そうとしたらノブと間違えてしまいました」
「間違えたんならしょうがないですけど……」
 そういっている間に、一則は興奮して絶頂に達してすぐに射精した。ドピューーと尾を引くようにサオリの股間めがけて、黄色がかった精液が飛んでいく。どろっと、股と太ももあたりに付着して、ピンッと上にチンコが跳ねて、サオリの顔や服にも少し飛んだ。
「すいません、便器に出そうとしたら当たってしまいましたね」
「しかたないですけど……」
 そうやって、もう諦めたという表情で、トイレットペーパーを大量にとって顔や股間を拭いていた。念入りにビデで股間を洗っている様子を、一則はずっと見守っていた。パンツとズボンをはいて、後始末をするともう普通の表情に戻っていた。最後に、トイレットペーパーをきちんと三角折りにするサオリは、意外と冷静だなと一則は考える。あるいは、催眠の効果で結局は深く考えないようになっているのか。

 その日もお風呂には一緒に入ったが、射精はしなかった。夜のお楽しみが待っているからだ。雑事を済まして歯も磨きあとは寝るだけ。サオリは最近は特に早寝になっている。サオリは、二階の自室にある少々古いが大きめのベットに寝る。
「私の部屋にまで入ってくるんですか」
 そういう、サオリにいつもの「通りすがり」問答で回答する一則。それで納得したのか、催眠用のお茶を飲んで、就眠儀式に移ろうとしているサオリだった。ピンクを基調にした、簡素だが女の子らしい部屋だった。サオリの年齢にしては、調度品の趣味が少し幼いぐらいだろう。それは両親が生きていたころと、なるべく一緒のままにしてあるからなのだが一則はそこまでの事情は知らない。

「なんで私のベットの中に入るんですか」
「だって、ベットがあったら普通寝るでしょう」
 サオリのベットは大きいから、デブの一則が入っても十分二人は眠れるだろう。ただ、若干スプリングが古いので、一則が乗ったときにミシミシと激しく音を立てた。
「それはまあいいですが……、なんで裸になるんですか」
 服を脱ぎ捨てて裸になって、ベットにおいでおいでしている一則。
「ぼくはいつも寝るときはノーパン健康法が習慣なんだよ」
「なるほど、それじゃあしょうがないですね。私はもう休ませてもらいますから」
 納得した、サオリは自分も部屋の電気を消してベットに入った。心を落ち着かせるとレコーダーのスイッチを押す。あっいけないと、一則は慌てて布団の中にもぐりこんで耳を塞いだ。一則まで、催眠にかかってしまっては眼も当てられない。とりあえず、今日は五分間そうやってしのいだが今後は、耳栓を買っておこうと一則はおもった。
 レコーダーが終わると、死んだようにぐっすりとサオリは眠っていた。ものすごい安眠効果というより、ほとんど精神麻酔に近いのでこうやって寝ると、震度六の地震でも来ない限りは起きないだろう。
 一則は、消していた部屋の電気をつけると、ゆっくりとサオリの薄い寝巻を脱がし始めた。下着姿になる、胸の豊かなサオリは感心なことにちゃんと寝るときもブラジャーを着けている。こういう小まめな心遣いが、おっぱいの垂れを防止するのだ。
 上下とも、薄手の黒い下着であった。細かくレースが刻まれていて、サオリが持っているなかでは、高いほうだろう。自分と初セックスするために、勝負ブラをつけてくれたのだなと嬉しくなって、しばらく眺めるように観察してから、ダブルホックをはずして、豊かなおっぱいをぶるんを出す。そして、下もゆっくりと脱がしていく。脱がした衣服は、勉強机の上においておいた。
 サオリの身体を「よっこいしょ」ともちあげてベットの真ん中に置く。ここからが大仕事だ。一階に隠してあった、拘束具を取ってくる。ベットの下の柱と手をつなぎ、そこからさらに足をつなぐという、簡易式ながら本格的な拘束具だ。
 両手を束ねた皮手錠をぐっと上におしあげて引っ張ることによって、それに連結した足も上に引っ張られて、「さあ挿入して!」といわんばかりのM字開脚になって、大事なところを開いたままに、身動きが取れなくなる。
 業務用で高かったのだが、安物をつかってサオリちゃんの身体を傷つけても困る。それに、四十二年間守り続けた童貞を切る、一則の初セックスのお祝いでもあるから奮発してみた。
 一則は童貞なのに、サオリのお股を見るとやっぱり、経験は済んでいるらしくビロビロは外にでた、大人のオマンコだ。色素が薄いほうで、あまり遊んでないようには見えるのだが、サオリが始めてでないのだけが一則の残念であった。
「さあ、子供マンコにしようね」
 そこで、せめてもの慰めとして、サオリの剃刀で丹念に陰毛をジョリジョリと剃っていく。もともと体毛が薄いほうでもあって、あっというまに綺麗なツルツルマンコになってしまった。
 日本人は陰毛を剃る習慣がないが、洋物AVを見ているとみんな剃っているので、ここは西洋風を取り入れるべきだと、一則は前から思っていたのだ。
「オマンコの和魂洋才というわけだな」
 綺麗に剃りあがったのを喜んで、一則はわけのわからないことを呟いて満足げに頷いている。怖くて風俗にもいけなかった一則は、ここで始めて女性のオマンコを見たわけである。しげしげと観察する。
「これがクリトリスか……わかりにくいんだな」
 あまり使っていないサオリのクリちゃんは、ぐにぐにと刺激しても皮に覆われていて引っ張ると辛うじて剥けるか、という感じだった。ぐっと剥いてみると、サオリの身体がビクッと震えたが、まだ眠りの中にいるようだった。
「刺激にはなるんだな」
 今度は味だと、舌で舐めるようにしてサオリのオマンコを濡らしていく。下の大きな穴がチンコを入れるところで、上がおしっこの穴だというのはさすがに一則にも分かる。サオリの小柄の身体に比例して、穴も小さめで本当に一則の大きいチンポが入るのかどうか、すこし不安になる。
「まあ、未経験ってわけじゃないんだから」
 オナホールが大丈夫なんだから、本物も大丈夫だろうというトンでもない理屈で、自分を納得させる一則。とるもとりあえず、よく濡らすべきだと、買ってきたピンクローターという道具を、サオリのオマンコに挿入する。
 細長い卵みたいな、物体でそれを奥までにゅるりと挿入すると、スイッチをいれて振動。ブーンという音と共に、サオリの中でローターが震えているのがわかる。しばらく見ていると、膣圧で外にニョロっと押し出されてきたので、また中に押し返す。
 そんなことを続けていると、だんだんローターに白い液体が付着するようになってきた。
「これが愛液というやつか……」
 精液とはまったく違うが、一則が夢想していた甘い香りがするようなのとも違う。すえたような、すこし鼻に残るような匂いだった。すこしとろみがあって、思わず一則が舐めてみると、なんだか股間がすごく熱くなる淫靡な味がした。
 一心不乱に舐め続けていると、次第に匂いや味は感じなくなっていって、ただサオリの身体の中から分泌される粘液に舌がまみれるようで、とにかく興奮した。すでに、一則のものはカウパーを大量に垂れ流して、ドロドロとベットのシーツを汚している。感慨もなにもなく、本能の趣くままにサオリのオマンコに押し当てると、ニュブッと押し込むようにして入れてしまった。
「あっ……なんだこれ……いぅ!」
 抱きしめるようにして、挿入して一番奥まで差し込むと、小さいサオリのオマンコは一則の巨大な亀頭をギチギチと締め上げて刺激して、初めて感じた女性の膣の感触に興奮状態だった一則の琴線はぷちんと切れてしまった。
 そうして、気がついたときには玉からグルグルと精液が駆け上ってきて、一気に一番奥で射精。ドピュードピュー! そう自分でも吐き出しているのが分かるぐらいに、ドックドックと眠っているサオリの膣の中を汚していく。
「あぁ、出てる中にでてる……出した」
 こうして、情けなくも気持ちよく、四十二年守り通した一則の童貞はこの夜に破られてしまったのだった。
 にゅっぷと引き抜くと、オマンコからはドロドロと愛液と精液の交じり合った混合液が止めなく出てくる。
「やっぱり、中にだしたら妊娠するかな」
 お腹を押さえたり、オマンコを刺激したりして、とりあえず中の液をなるべくだして、オナニーのあとにティッシュで拭くみたいにあらかた液はとっておいた。サオリはその間も口を尖らせるようにして、間抜けな顔で寝ている。
「寝てる間に、ぼくの子供を妊娠しちゃったかもね」
 寝たままは少しつまらない気もするが、説明しなくていいから面倒くさくなくていい気もする。そっと拘束具をはずして、服を着せてからサオリを抱きしめるようにして、サオリの髪からするシャンプーの花の香りに包まれながら、ぐったりといい気持ちで一則も寝るのだった。
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第六章「きゅうへん」
 もういい加減、休憩時間に屋上に呼び出されるにも慣れてきた幸助だ。
 初夏の風に金髪を晒すようにして、青空を見上げている姿が美しい。あいかわらず、なにをやらせても絵になる少女である。
 文句の一つでもいってやろうと、幸助が口を開こうとすると、いきなり繊細な指先で唇を押さえられた。見方によっては、なかなか官能的なしぐさだが警戒している幸助は、そんな気分にならない。
 別に喋る必要はないのだ「なんのつもりだ」と思考すれば、ルシフィアには伝わる。心が読める能力というのは便利なものである。一方的にだが。
「私たちの逢瀬を邪魔する虫がいるみたいです……給水塔の裏!!」
 ルシフィアが意外に通る声でそう誰何すると、本当に給水塔の裏から、見覚えのあるスラリとした女性がでてきた。
 幸助たちが来る前に、屋上に事前に隠れていたのだろうか。それとも、まさかとは思うが、直接壁を登ってきたのか。幸助の知る中で、それも可能かもしれない、と思わせるただ一人の女性……あの円藤希ならば。

 希は無言で、ツカツカとこっちに歩いてくる。彼女が無駄に喋らないのはいつものことだが、それにしても纏っている空気が張り詰めて冷たい。信じられないほどに、殺気だっていた。無造作なようでいて隙のない動き。触れると切れるような鋭い視線。
 不良狩りの異名がついてまわり、すでに高等部でも裏で有名になりつつある希だったが、マサキの近くにいるときは温和だったのに。本当の彼女の恐ろしさを始めて知った気がした幸助だった。声などかけられる雰囲気ではない。
 そんな、希に物怖じせずに、笑顔すら浮かべて話しかけられるルシフィアはやはり大物なのだろう。
「盗み聞きされると困るのです。普通科のあなたがわざわざ特進科の屋上まで、ご足労なことですが。それは、魔王の言いつけですよね」
 希はそれには答えず、静かに近づいてくる。足音さえしない。人を操るルシフィアの雰囲気も、今の希には何の意味も持たない。
 そうして、幸助の前を通り過ぎてルシフィアの眼前までいくと、突然その長い足を振り上げて振り下ろした。幸助はまったく希の動きが読めなかった。予備動作もなにもあったものではない、長い足を刀のように振りかざして一気に叩きつけるそれは、まるで剣士の鋭い斬撃――。
「なっ!」
 だが、驚きの声をあげたのは、希のほうだった。
 ルシフィアはまったく構えていなかった、油断しきっていたように希には見えていた。それなのに自分の相手の肩口に振り下ろしたはずの踵が彼女の両手で固められて動かなくされている。
 足はもう、ルシフィアに吸い付いてしまったように、どれほど強く力を込めても動かない。
「希さんは陸上選手なんですよね……足を圧し折られたいですか」
 笑みを浮かべて、脅迫するルシフィア。
 希は、それには答えずに今度は相手の頭を狙って左足を蹴り上げる。その一撃は、フェイク。
 避けられるのは計算のうちで、蹴り上げた足の反動で宙を舞うように一回転して後ろに下がると、地面に着いたとほぼ同時に渾身の突きを前に放った。
 ルシフィアに鉄のような拳が降り注ぐ。
 初撃で相手の構えを崩し、次弾で勝負を決する。希のいつもの必殺技だ。
 単純だが、それだからこそ早い。
 希の武道家としての真価は力でも技でもなく、鍛え抜かれた速度と急所を貫く正確さにある。
 希は女性、力は鍛えても限界がある。だが女性の身体は、柔軟さと反射神経で男に遥かに勝る。
 一瞬で一撃。二瞬で二撃。希の速度は、人類の限界に近い。
 その上で、さっきは手加減したが、これは本気の全力。スピードを乗せるということは力も乗せる必要がある。素人相手にやれば骨折ではすまない。ルシフィアも多少は腕に覚えがあるようだが、避けられるはずがない。
 敵の懐に深々と突き刺さった、刹撃。会心の手ごたえがあった。ほんの数瞬、突き刺した腕が力を出し切った快楽に震える。暴力に酔う。
 だがそれにもかかわらず。
「受けられたっ……」
 実戦経験の豊富な希は、相手の力は身体つきをみればだいたいわかる。やわなお嬢様に見えるルシフィアが一撃を受けきったのは意外だったが、そのしなやかな動きは柔術の類なのだろうと納得はできた。力を殺して受け止めることもできるかもしれない。
 だが、長年の訓練で練られた希の殺人機械のような連続攻撃のスピードに、人間の反応速度がついてこれるなどありえないのだ。
 ありえないことが、起きた。
 まるで、希がどう攻撃するか最初から分かっていたような完璧な防御。むしろ、希は攻撃を放棄して、後ろに下がろうとした。逃げようとしたのだ。
 だが掴まれた右手は、どんなに力を込めても動かない。冗談ではない、目の前の敵が本気になれば、四肢を順番にもぎ取られる。理解できない本能的な畏怖を感じて、背中に冷や汗が滲む。人間の持てる限界まで鍛えた希だから分かる、こいつのやったのは人間技じゃない。
 ちがう、人間じゃないのだ――目の前にいるのは『化け物』だ。

「おイタも……いいかげんにしないといけないです!!」
「はなせっ」
「魔王は監視だけを命じたはずです。誰が手を出せといったのですか」
「マサキは関係ない! 私の勝手な判断だっ!」
 だから、自分だけを罰せよと希はいうのだ。叶わない敵を前にして殊勝なことなのだが。希がそう思っていると分かったからこそ、ルシフィアにはその愚かさに思わず、その端正な顔をゆがめてしまった。ほんとに、腕を圧し折ってやろうかと希の腕を掴んだ手に力が篭る。
 心が読めるルシフィアには、人の心の醜さが手に取るように分かる。
 希の抱いている愛情と思い込んでいる感情は、ルシフィアにとって唾を吐きつけてやりたいほどに醜く見える。
 これが愛だと! 馬鹿をいうな、愛が穢れる。
 希のマサキへの愛情というのは、つまり自分の凶暴性を他者に仮託して押し付けているだけの甘えだ。希はマサキのためという理由をつければ、いくらでも暴力に酔うことができる舌なめずりする凶暴な獣。
 愛、正義、忠誠心。ご立派なものだ。それが同時に希の中で、剥き出しの殺意、剥き出しの暴力への渇望。殺したい壊したいという欲望なのだ。
 綺麗な言葉で、人も自分も騙して醜さを押し隠して!
 達観した武道家づらをしている下郎の女が。
 よりにもよって、この私を『化け物』と蔑むか!
 ルシフィアの抱くのは、そういう深い怒り。
 そして、それをたぶん全て理解して、そのうえで自由を許しているマサキの愚かさ。これは飼い主の責任だ。凶暴な犬を鎖もつけずに放し飼いにしている馬鹿がいる。どいつもこいつも、愚か過ぎる。
「へぼ将棋、王より飛車を可愛がりっていうそうですよ」
「なんのことだ」
「魔王は、優れた指し手ではないってことです。自分の持ち駒をコントロールもできないようですから」
 そう揶揄して、ルシフィアは怒りを自分の心で噛み殺してから、希の主を蔑み、あざ笑って、希の手を離してやる。もう、攻撃される恐れはない。
 希は監視がばれた段階で、実力行使でルシフィアを押さえつけようしたのだ。マサキが『手を出すな』とは命令しなかったから。それがマサキの過失なら愚か、万が一にも故意でやったなら戦争だ。
 希の力押し。拙速すぎる攻撃。それが有効な敵もいるだろうが、思考が読めるルシフィアには早いだけで単調な攻撃など通用しない。希の動きが機械のように正確だからこそ、簡単に封じることができる。
 そして、それを示したルシフィアに希は飲まれた。
「私は……駒じゃない」
「そうですね、監視の役目もまともに果たせないようですから。駒以下の役立たずだ。あなたは、なぜマサキが攻撃ではなく監視を命じたのかも理解できていない」
「どういうことだ」
「知らないんですか、ここの学園の理事は佐上家の者ですよ。私が、その気になれば適当な理由をつけて、安西マサキを放校処分にできるんです。私と敵対したらこの学校には居られないんです。だから監視だけを命じたのに、勝手に貴女は動いたのです。たとえば暴力沙汰とか、退学の理由付けにはちょうどいいですよね」
 希は二の句が次げない。それはそうだろう、まさかいきなりマサキを退学。しかも、自分の安易な行動のせいで。そんな希の絶望をタップリと味わい尽くすと、ようやく気が晴れたのかルシフィアは罪のない笑顔で助け舟を出してやった。
「私も鬼じゃありません。今回だけ、許してあげましょう。二度と私と……幸助さんの行動を監視しないように魔王に伝えておいてくださいね、次はありません」
 そういうと、もうそこにいる希からは興味を失ったようにルシフィアはフェンスに手をついて屋上を見上げた。希はその背中に何かをいいかけようとしたが、すぐ諦めて、肩を落とすようにして、幸助にだけ一礼して希は去っていった。

 もう、ルシフィアは普段の優雅な様子を取り戻していた。その背中に幸助は声をかける。
「おい……」
「なにか?」
 なにかじゃねえと、幸助は思う。一連の騒ぎが急な展開すぎて、何も言えなかったのは情けないが、幸助からも釘を刺しておかなければならないことがある。
「いきなり退学とか」
「ああ、あれはただのブラフです」
「えっ……嘘なの?」
「うちの家が学校に出資してるからって、学園理事の娘だからって何なんですか。勝手に生徒を退学なんかにできるわけないじゃないですか」
 そういって、ルシフィアはお腹を抱えておかしそうに笑う。
 そういわれたら、そうなのかもしれないが、権力者然としたさっきの堂々たる物言いを聞かされては騙されてしまってもしょうがない。というか、こいつも怖い。
「希はまんまと騙されたわけか……」
「小賢しい魔王なら、あの程度のブラフは効果ないでしょうが。あれは手駒を大事にしすぎてますから、ああやって少し円藤希の頭を押さえつけてやれば、もう手はだせないですね。向こうは暴力できたのに、平和的に解決した私を褒めて欲しいですね」
「うん……それは、まあ……」
「それにさっきから、手が痺れてすごく痛いんです……覚悟して受けましたけど、女性とは思えない馬鹿力ですね。次はないのは、本当はこっちですよ」
 そうやって、可哀想に少し赤く腫れてしまった手のひらに息を吹きかけている。力を逃がしきったはずなのに、それでもなおダメージを与える希のほうこそが『化け物』だとルシフィアは言い返してやりたかったのだ。
 そしてマサキは馬鹿者だ。それは決定。
「マサキにも、大丈夫だといっておいたのに」
「希さんの頭の中を見て分かりましたが、あなたもずっと監視されていたはずですよ。気がつかなかったんですか」
「えっ! そうなの」
「気配が見えるというなら、それぐらい察知してくださいよ」
「面目ない……」
 たぶん多人数での、それとなくの監視だったのだろう。マサキの手下は学園に無数にいるからな。幸助の気配察知は「なんとなく」というレベルだから、尾行でもされないかぎりは分からない。
「それにしてもわからないのが、魔王です。彼は臆病で手駒を出し惜しむ性格のはずなのに、いきなり一番の切り札を使い潰すように無駄にして」
「お前はマサキくんの考えも読めるのだろう」
「それは……そのはずなんですが、変なノイズが。こんなこと珍しいんです」
 そういって、ルシフィアは本当に困惑げに端正な眉をひそめる。
「君の読心術は、完璧ではないのか?」
「完璧に近いですが、視力と一緒で見ようと思わないものは見えないのですよ。隙はあります。人間ですから、私も……」
 それは、おおよそ人間らしくない完璧さを見せていたルシフィアの、人間らしい弱さを垣間見せた瞬間ではあった。
「そうか、マサキが言っていたのも、あながち間違いじゃないということか」
「あれは間違いなんですけどね、もう少し使いやすいですよ私の力は。それに、私が出している情報に左右されている段階で、隙を突くなんて不可能ですからね」
「ああっ、それもそうか」
 ルシフィアの隙が突けたら、という幸助の思考もどうせ読まれているのだ。
「それでも見ようと思わないものは見えない。私に弱点があるとしたらそこだけです。幸助さんが突きたいなら、突いてくれていいですよ。それじゃあ、私は行きます」
 謎かけなようなことをいって、さっさと行ってしまおうというルシフィア。さすがに呼び止めてしまう。
「どこへいくんだ」
「魔王のところです、よく考えたらすっごく怪しいです。放っておこうかと思ったけど、気が変わりましたのです」
「マサキに手出しだけは」
「しませんですよ、私は相手が手を出そうとするまえに分かるんです。相手がやる気がなければ、私もやる理由はありませんです」
 そういって、行ってしまった。なにか少し焦っていたようだった、いつも無駄に余裕をかましている彼女らしくない。止まった世界でしか、力を発揮できない幸助としては争いにならないように祈るしかない。
 マサキがルシフィアとこうもぶつかってしまったのは、やはり幸助のせいなのだろうか。バランスが崩れた原因が自分だとしたら、幸助はそう考え込んでしまう。何をすべきで、何をすべきではないのか。幸助の力は限定された環境でのみ無敵であり、現実で何かをするには余りにも無力だった。
序章「付纏豚始」
 早崎サオリは、近くの交番では話にならないと思って所轄の警察署まで来ていた。自分がストーカー被害を受けていると説明すると、中年のくたびれた刑事がボールペンを片手でくるくる回しながら、相談室で話を聞いてくれはしたのだが。

「それで、自宅のドアノブにべったりと何かネトネトした液体がふりまけられていて」
「はいはい……たぶんそれは体液だね」
「そうだと思います。それで怖くって」
「それで、犯人は見たのかな。見てなくても心当たりとかは」
「それは、見てないですけど……心当たりもありません」
「相手の人相もわからない、物も壊されてない、身体にも直接被害を受けたわけではないか……ごめんね、現段階ではちょっと警察は動けないな」
「そうなんですか、でも体液だったら指紋とか科学捜査とか!」
 自分は不安なんですと、ドンドンとサオリは机を叩く。疲れきった様子の刑事は、慣れているらしく微動だにもしなかった。ゆっくりとサオリを諭すように話す。
「この管区で、今月だけでも殺人が一件に強盗が三件、マンション専門で十数件発生してる、ひどい手口の強姦事件も捜査中のうえに、交通事故もあったからね。申し訳ないけど鑑識も手一杯なんだよ」
「うー、じゃあなにもしてくれないんですか」
「もちろん、近くの交番のお巡りさんに早崎さんの自宅近くは厳重にパトロールしてもらう。犯人もわからない、被害が悪戯程度では、いまうちができることはそのくらい。何か事件が起こったら、また連絡してくださいね」
「何か起こったら遅いのに、警察って役に立たないんですね」
「辛らつだね……ああ、そうだ費用は少しかかるけど、この近くだとストーカー対策専門にやってる探偵事務所があるよ、悪質なストーカーを何件も解決してるところだから、お値段もお手ごろ、警察のOBも参加してるから信頼性も保証済」
 そういって、探偵事務所の名刺を渡してもらった。
 有料の探偵事務所にたらい回すなんて。これでは税金を払っている意味がない、サオリは少し憤慨して警察署をあとにする。だが、目の前のストーカーの脅威は怖くてどうしようもないので、結局はしょうがなく探偵事務所に電話することにした。

「はい、井伊河探偵事務所です」
「すいません、早崎と申しますが……」
 事務所の事務員らしい女の人に、ストーカーらしき人物からの無言電話や、おかしな手紙を投函されたり、ドアノブに体液を振り掛けられたりなどの被害を受けていること。最近歩いていても、よく視線を感じることなどを説明した。
「なるほど、うちはストーカー対策は強いですから。お任せください。十五万で一通り対策した上に、犯人を罠にかけて捕まえるコースと、とりあえず対策だけの五万のコースの二種類がございますが、どういたしましょうか」
「えー、お金そんなにかかるんですか」
 払えないこともないが、少し躊躇してしまう金額。それだけの金額があれば、壊れてしまった乾燥機も新しいのに買い換えられる。ストーカーのせいでそんな無駄な出費をと思うと、倹約家のサオリはなんだか悔しくなる。悪いのは自分じゃないのに。
「先にご説明いたしますが、初期費用でこの金額になっております。当社も誇りをもって早急な解決を目指して動きますが、こちらも仕事としてさせていただきますので、特殊なケースで長引いてしまうと別途に人件費がかかってしまうこともございます」
「そうなんですか……あの、もっと安いコースはないですか」
「…………どうしても費用がということでしたら、交通費一万円だけでストーカー対策をやってくれる慈善団体もご紹介できますが」
「えっ! そうなんですか」
「ただ、そこはプロの探偵ではありませんので。うちとは関係ない慈善団体で、費用を払えないお客様にだけご紹介してるんです。当社はもちろん責任もてません。実績もよくわからないので、本当はお勧めできません。大事になってからでは遅いですから、やはり多少金銭的にかかってしまっても、ここはきちんとした対策をプロに」
「うーん、でも一万円のところがあるんでしたら、とりあえずそこで」
「…………分かりました。では電話番号をお教えしますので、メモの用意をお願いします」

 教えられた電話番号の先に電話すると、若い男の人の声で「すぐに行きます」とのことだった。今日は有給を取っていたので、すぐに対応してもらって助かるとサオリは気を良くした。
 玄関先で、若い男が差し出した名刺には「ストーカー対策心理カウンセラー」とあった。なんかもっともらしい肩書きを並べたような胡散臭い感じだが、ビシッとした高そうなブラウンの背広に身を包んだ長身の超イケメン……とまではいかないが、こっちまで笑いたくなるような朗らかな印象の好青年だった。
 しかも、若いのに頼りがいのある大人の男性という風格。柔らかい物腰。素敵な笑顔。早い話がサオリの好みのタイプだったので、とりあえず立ち話もなんだから、上がってもらった。

「あの……お飲み物を何か、お出ししましょうか」
「ああ、それでしたら良いものを持ってきたんですよ」
 そういって、男はなにやら高級そうな木箱から乾いた蕾のようなものを差し出す。
「えっと、これはお香ですか」
「中国のお茶なんです、お湯をいただけますか。よかったら早崎さんもどうぞ」
 ポットと湯飲みを持ってくると、男はひとつまみ入れてお湯を注いだ。仄かに甘い花のような香りが広がって、蕾のようなものがぱっと花開いた。
「まあ、綺麗ですね」
「香花茶っていうんですよ、乾燥したハーブが開くときに花に見えるので」
 男はそういって、美味しそうにお茶を飲んで見せるので、サオリも飲んでみたらとても口当たりが良くて素敵な味だった。サオリもハーブティーは好きなので、カモミールなどをたまに煎じて飲むのだが。それよりも、もっと濃厚で甘みが強いのに後味が良い。こんな種類のお茶があるとは知らなかった。
「とっても美味しいですね」
「それはよかった、リラックス効果があるんですよ。ストーカー被害にあわれた方は、みんな神経質になってますので、緊張を解いて話してもらおうと思っていつも持参しているんです」
 そうだった、サオリは話に引き込まれてしまったが、その話で来てもらったのだった。サオリはいままでのあらましを一通り話して聞かせる。男は、話を聞きながらいろいろとメモを取っているようだった、聞き上手なのでつい余計なことまで話してしまう。
 サオリは、頼もしい男性に話を聞いてもらうだけでも、今日の憤りとか不安が少しマシになった気がして来てもらってよかったと思い始めていた。
「えっと、確認させてもらいますけど、早崎サオリさん二十三歳、近くの食品会社の事務員としてお勤め、家はこの大きなお屋敷に一人住まい……なんですか」
「ええ……大きいだけで古いですけど」
「それでも都心の近くに、こんな閑静な住宅があるとは思いませんでしたよ」
「閑静じゃなくて、田舎のでしょう」
 そういって、サオリは微笑する。
「確かに少し寂しすぎるかもしれませんね。こんな場所に一人では家の手入れも大変だし、防犯的なことを考えても、正直なところ売るか貸すかして、もっと賑やかところに越されたほうがいいかとも思うんですが」
「それを考えたこともあったんですけど、死別した両親が残してくれたこの家だけが形見みたいなものですから。住める限りはここに居たいと思いまして」
「それは、差し出がましいことをいいました」
 そういって、男は申し訳なさそうにして、居住まいを正す。
「いえいえ、それにこんな場所は、なかなか売れるものじゃないですからね」
 そういって、少し寂しくなった庭に目をやる。雑木はまだ残していたけれど、松の木は手入れが大変すぎたので切ってしまった。やはり、自分ひとりでは駄目なのだろうか。いい人でもいればいいのになと、ちょっと考える。
「彼氏が、出来たのは学生時代に二回で、すでに別れている。いまは付き合ってる方はいない、でよろしいですね」
「そんなことまで聞くんですね」
「もし、これが本当にストーカーならそういう人が容疑者になることもありえますから。仕事上でも心当たりはないんですよね」
「入社してから、同じ社の方に口説かれることは何度かありましたけど、しつこい人はいなかったですね」
「ふむぅ……」
 男は、考え込むように庭を見つめた。このおいしいお茶は、リラックスするのはいいのだが、なんだかサオリは心が弛緩しすぎて少しボーとしてしまう。思わず出そうになったあくびを、サオリは恥ずかしげに噛み殺した。

「あのぉ……」
「私のやっているストーカー対策は少し変わっているんですが、早崎さんのケースならお力になれると思います」
「そういえば、ストーカー対策……心理カウンセラーですか」
 名刺を見ながら、サオリは聞く。聞き覚えのない職業だ。
「そうです、私は普段は性格改善カウンセリングや、クライアント相手に心理面でのコンサルタントの仕事をしているんですが、その絡みもあってボランティアでストーカー被害に遭われたかたの相談をしていたんですが」
「はい」
「いくつものケースに当たるうちに、被害に遭われる方というのはみなさん似たような性格をされていることに気づくようになりました」
「私も……そうなんですか」
「察しがいいですね、こんなことをいうと失礼かもしれませんがまさにその通りです」
「そうなのですか……」
 またお茶を啜ってから、渋い顔で男は言う。
「この仕事をしてますと、探偵さんのお仕事振りを拝見することもあるんですが。たとえば、盗聴器をしかけられていたら、盗聴器を探る探査機。追いかけられたら逆に追いかけかえして捕まえるという風でして。逮捕されても微罪だとすぐに出所して、逆恨みして犯行を重ねる犯人もいます。そう考えると、根本的な解決になっていない場合もありますね」
「それは……そうなのかもしれませんね」
「手口も次第に巧妙になっていきます。イタチゴッコですよ。そうやって、対策のためにかかっていく費用も馬鹿になりませんからね」
「ああ、そうですよね」
 サオリはお金の話をされて、深くうなずく。
「そこで、発想を変えて被害者の方の性格を改善しようと思い立ったわけです」
「なるほど」
 サオリはよく分かったような、分からないような変な気分だった。
「早崎さんは、几帳面すぎるとか、少し神経質だと言われたことはありませんか」
「えっと……あります」
 なんで分かるのだろう。
「広いお屋敷なのに清掃が行き届いている。あとは玄関口で、古いタオルを雑巾に作り直して置いてあるのが見えました」
「あっ……片付けておいたつもりなんですけど、お恥ずかしい」
「いまも、そうやって緊張が出ると指を小刻みに動かしますね」
「あ……そうですね、癖かもしれません」
「いまどき、若い娘さんで雑巾を自分で作る人は珍しいですよ。量販店でただみたいな値段で買えますから。几帳面というよりは……無駄が嫌いな性格をなさってらっしゃるんですね」
「そうですね……どちらかといえば」
「そういうのが良いところにでれば長所なのですが、ストーカー相手だと嫌がらせにたいして過剰に反応してしまって、かえって煽ってしまいかねないんですよ」
「ああ……そういうこともあるんですか」
 自分の性格が問題だといわれて、少し釈然としないまでも、言ってることは当たっているような気もした。
「犯人の手口を聞いていると、個人的な感情をぶつけている犯人というよりは……ただの悪質な悪戯ですね。あなたが反応すればするほど過激になっていっているみたいです。子供の悪戯とそう変わりないんですよ、反応すれば面白がってもっとやる、ずっと無視されていれば、最初ムキになってやってくるかもしれませんが、すぐ飽きて新しいターゲットを探すでしょう」
「そういわれてみれば、そうだったかもしれません」
 それはサオリが、考えても見ないことだった。
「とはいっても、急に性格を変えろといっても難しいですよね」
 そういって、男はサオリの考えを先に促すように笑いかける。
「そうですね、いわんとされていることはわかりましたけど」
 生まれつきの性格を変えろといわれても、それはなかなか難しいことだと思う。
「でも、すぐに性格を変えられる方法があるとしたらどうですか」
「えっ……そんなこと急には無理でしょう」
 人間の性格を変える方法があるなんて、聞いたことがない。そんなものがあるなら、怒りっぽい人とか改善すればいいんじゃないだろうか。
「最近になって、催眠療法を使って禁煙などを促がす治療がアメリカでよくされるようになりましてね。軽い暗示のようなものなのですが」
「えっと、それって精神治療みたいなものですか」
 よくドラマとかで、長椅子に横たわって精神科医が話をしたりするあれだろうかとサオリは思い出した。
「あんな、難しいものではなくて、もっと簡単なものなんですけど。物は試しですから、やってみませんか」
「えっと……少し抵抗があるような気が」
「これも被害者に多いんですが、早崎さんはとても魅力的な容姿をされてますね。仕草も可愛らしいし、目鼻立ちも整っていて……性格も女性的でお優しいと思いますよ」
「いや……そんなことは」
 好みのタイプの男性に、こうも面と向かって褒められるとサオリも悪い気はしない。
「だけど、いままでいい男性にめぐり合わなかったのは、どこかナイーブすぎるところがあって、早崎さんの良さがうまく伝わっていないのですね」
「あっ……いえ、そんなことはないと思うんですけど」
「そこらへんも、たぶん少しずつよくなっていきますよ。ほんとに、業務で性格改善をやるならお金とるんですけど、今回は被害者を助けるための慈善事業ですから無料です。五分ぐらいの簡単なものです」
「五分ですか……じゃあ、少しだけ」
「本当は長椅子に寝そべっていたほうがいいんですけど、リラックスしていただけるならそのまま座ったままで結構ですからね」
「はい……」
 そういうと、男は何か音楽をかけ始めた。クラシックのようで、ピアノの調べが聞こえてきたり、ゆったりとした中にも糸が張り詰めているような不思議な曲だった。しばらく音楽だけ聴き続けていくと、男はサオリの耳元で「さあリラックスしてください……」と語り始めた。

 …………

 いつのまにか、サオリは座布団を枕に眠ってしまっていたらしい。「さあ、ゆっくりと目を覚ましてください」というセリフは聞こえたが、それ以外の記憶がなかった。起き上がって、立てかけてある時計を見るときっちり五分だった。
「少し……ウトウトとしてしまっていたみたいで」
「そうですね、大変リラックスされていたということですから、それでいいんですよ。さっきの暗示をレコーダーに録音して置きましたから、寝る前にでも枕元で毎日聞いてください」
「えっと、これってどういう効果があるんでしょう」
「細かいことを気にせずに、ゆったりした気持ちになれますよ。このお茶も一緒に差し上げますから、聞く十分前ぐらいに飲んでくださいね。一ヶ月も繰り返せば、かなり状況は改善されると思います」
「ストーカー被害も止まりますか」
「そうですね、嫌がらせがまったく効果がなくなれば、犯人もつまらなくなって止めると思います。しだいに気にならなくなると思いますから、少しの辛抱ですよ」
「あの、ありがとうございました。お茶とか、レコーダーも、本当にいただいて結構なんですか」
「どれも仕事に使用するのに安く仕入れてるものですから、そんなに高いものではありません。交通費とあわせて一万円で結構です」
 ああ、いい人なんだなとサオリは改めて好感を持った。一万円を封筒にいれて男に渡すと、男は「大丈夫だと思いますが、万が一気になることがあったら必ず連絡をください」とだけ言い残して、洋々と去っていった。
 さて、この広い家にまた一人になってしまったなあとサオリは少し寂しく思うのだった。サオリが休日に一人家に居ても、することは掃除や洗濯などの雑事を片付けて早めに風呂に入って寝てしまうだけだ。

「我ながら、寂しい生活をしているなあ……」
 そういって、サオリが身体を手にボディーソープをつけてごしごしあらって湯船につかって、出ようと思ったときに気がついた。
「あっ……しまった、お風呂場の窓の鍵が空いてる」
 こんなミスをするのは始めてだった。しかもほんの少しだけ隙間が空いていて、いま誰かが覗いていたといわんばかりだ。怖くなったが、こっちから覗き込んでもその隙間から誰かの目が見ているということはなくて、ほっとする。ホラーは苦手だ。
 それでも、気になってガラリと窓を開けてみると、近くの茂みがガサゴソと音を立てた気がした。
「……」
 サオリは、さっさと身体を拭いて服を着てしまうと、お風呂場の外の窓を調べて見ることにした。ちょっと、怖い気持ちがあったが、夜に一人で外を調べるなんて大胆なことが出来てしまうというのは、例の性格改善なんたらのおかげかもしれない。一回やっただけなのにすごい効果だ。茂みも入念に箒で突いてみたが、誰かや何かの動物が隠れているというわけでもなさそうだった。
「気のせいかな……」
 そう呟いた瞬間に気がついた。例のドアノブについていたのと同じ、汚らしいドロドロの液体がお風呂場の窓の前に付着している。サオリは無言で、庭からホースを引っ張ってくるとシューーと水を当てて汚れを落とした。
「これでよしっと」
 サオリも性経験もあれば、男性の出す体液のことも知っているので、ここで何があったのか想像できないこともなかったが、不思議と気にならなかった。この程度のこと、たいしたことはないような気がしてきた。女が一人で生きていくには、強くならないといけないのだった。

「ふふっ……」
 思わず楽しくて笑ってしまう。前のサオリだったら、もうあんなことがあったら家に篭城するようにキツク施錠をして、雨戸を閉め切ってブルブルと震えながら眠れない夜を明かしただろうに、いまは戸締りもいい加減で、ゆっくりと自分の部屋でもらったお茶を飲みながらくつろいでいる。
 初めて、あの正体の分からない不気味なストーカーに勝った気がして嬉しかった。
 明日は、むしろこっちから攻勢にでてやってもいい。そう、サオリは思いながら、貰ったレコーダーをかけてあっという間に寝た。

 昨日ものすごく早く寝たので、起きたのはまだ朝日が昇る時刻だった。今日は出勤だが、まだそれまでには時間がある。朝ごはんを作って、普段作らない昼の弁当まで作っても、時間が余る。
「よし!」
 そう思って、夜のうちに洗濯機で回しておいた自分の洗濯物を庭に堂々と干した。下着も寝巻きも関係なしで、全部干す。もう、ストーカーを怖がって厳重に施錠した自分の部屋に日陰干しは止めだ。
 今日は天気がいい、すごくよく乾くだろう。見事なノーガード戦法に、ストーカーの奴はどう反応するか、意外に思うだろうか。むしろ何かあるのが楽しみなぐらいだった。弁当を抱えて、意気揚々と会社へと出向いた。
 久しぶりに頭がすっきりとしていて、仕事がはかどってしかたがなかった。普通の事務員であるサオリは五時退社である。しかし、いつものようにすぐには家には帰らず駅前によって、安売り店で予備の下着を買いあさる。これまでの、ストーカーの行動から考えて、下着が全部無事に残っているとは考えられないから。多めにそろえておくべきだ。
「別に、綿パンとかでいいよね」
 特に見せる人もいないのだし、贅沢する必要もない。秘蔵の勝負下着は、悲しいかな勝負されないままでタンスに眠っている……そうだ、もしかしたら、下着だけじゃなくて他の衣服までやられているということはないだろうか。
 これまで、それはなかったのだが。しばらく考えて結局、ストッキングを数枚とできるだけ安く済みそうな下着をいくつか揃えで購入した。こんなに一気に買ったのは去年の旅行以来だ。そうして、家に帰ってきてサオリが見たものは、綺麗さっぱりと消えているブラとパンティーだった。
「全滅……ちょっとここまでやるなんて」
 下着を買ってきてよかった。まさか大量に干したのが全部とは、さすがに予想もしてなかった。
「もうしかたがないけど、靴下までいくつか消えてるのはなぜ」
 靴下は本当に予想外だった、あんなもの盗んでなんに使うのだろう。また買い足しておけばいいけど、地味な出費でちょっとむかついてくるサオリ。取るんだったらせめて金を置いていけといいたいぐらいだ。プンプンと怒りながら洗濯物を畳んでると、下にいくつか下着が落ちてることに気がついた。
「あっ……よかった」
 黒地に白い刺繍が入ったお気に入りのやつで、そこそこ高かったやつだ。犯人が、慌てて取っていったから落としたのだと思ってそのパンティーを拾い上げると、手にドロッとした液体がついた。
「あっ……そういうことか」
 別に、手に粘液がついても気にはならなかった。前なら、絶叫して青くなり倒れこんで、一週間ぐらいショックで落ち込んでいたかもしれない。でも、こんなもの手を洗ってしまえばそれでおしまい。手と一緒に、パンティーの様子を調べてみると、股の布が厚くなっているクロッチ部分に黄色がかった精液がタップリと付着していた。
 精液は、白いのしかみたことなかったので、黄色が混じったのが出る人もいるのかと冷静に観察する。もしかすると、おしっこしたのかもしれないけど、おしっこがこんな粘り気があったりはしないだろう。
 さすがに匂いまで確かめて見る気には、ならないけどもう手に遠く持っただけでクリの花のような蒸せた匂いが充満している。時間が経っているせいもあるのだろうが、こんなに強烈な匂いは初めてだ。
 この黄色いのが、自分の染みってことはありえないだろうなあ。そんなことを、思いつつ、手と一緒にソープで洗い流す。
「元気なこと……」
 いったい犯人は何度射精したのだろう。若い男なのだろうか。こんな形で汚されたパンツとブラが数点……ブラジャーは胸の膨らみの部分に射精してあった。とんでもない変態であることには違いない。
 汚された下着を全部手洗いしてから、また洗濯機に一緒にいれて洗濯する。
「まあ……これでもしかするとなくなるかもね」
 自分が汚した下着までもが、平然とまた洗濯に出されていたらどう思うだろう。「私はこんなことぜんぜん気にしてないんだぞ」という意思表示。さすがに、嫌がらせストーカーもこれは無駄だと悟って、取っていかないんじゃないだろうか。そう思うと、むしろ次の洗濯物を干すのが楽しくなってくるサオリであった。

 夜、男からもらった中国のお茶の残りを確認すると五十粒はある。
「一ヶ月でいいとかいってたような……まあ二ヶ月やっても別にいいのだけど」
 そういって、サオリはお茶を飲んでその日も死んだようにぐっすり眠ってしまう。また早朝に、意気揚々と洗濯物を堂々と干すのであった。とりあえず、今日は買ってきた下着を穿いておく。
「自分が汚したはずの下着が洗濯されておいてあったらストーカーはどうでるかな」
 向こうの出方を待つのが、むしろ楽しみなぐらいだった。

 仕事を終えて帰宅すると、下着は一つもなくなっていない。
「よし! もしかしたら、諦めたのかも」
 そう思って洗濯物を取り込んでいると、今度は飾り気のない安物の白いパンティーのこれまたナイロン生地のクロッチの部分にたっぷりと射精されているのに気がついた。
「そう簡単にはいかないか……また黄ばんでる」
 黄ばんだ精子の出る人が犯人とかいっても、警察はとりあってくれないだろうなと思いつつ、汚されていたのがそのパンツだけだったので、それだけ手洗いしてまた洗濯物のローテーションにまわした。
「こうやって数日やってるうちに、終わるかもしれない」
 最初の、むしろストーカーに挑戦してやるんだという気持ちは薄れて、たんたんと気にせずに相手に対処するという感じになってきた。慣れてしまうと、これもたいしたことないと思えてきた。
 お風呂に入っていると、またお風呂場の窓の鍵を閉め忘れたことに気がつく。しかも、また隙間が空いていて、そっと確認したら人の目が覗いている。髪の毛も顔の輪郭も湯気で分からない、分かるのは小さい隙間から目が覗いているということだけだ。
 普段なら恐怖しすぎて、腰が抜けてもおかしくないシチュエーションだが、この日のサオリは冷静であった。まず、相手を刺激するか刺激しないかを冷静に考える。ヘタに刺激しては被害が広がるのではないか、相手は覗いているだけなのだから、たいしたことはないんじゃないだろうか。
 別に生娘というわけでもなし、少し不気味で嫌な気持ちはあるけれど、いまさら裸など見られても減るものでもない。
 そんなことを考えながら、惰性で身体を洗い、相手の目が見えない浴槽に深々と浸かってまだ考え続けて。そうして、浴槽から上がって確認したらもう人は居なくなっていた。「ふうむぅー」という感じ。
 相手はこっちが気がついたことに気がついて逃げたのだろうか、それとも分からないまま退散してしまったのだろうか。どっちでもいいことかもしれない、無事に済んだのだから。
 風呂にあがってから、服を着て現場を見に行くとやはり浴槽の壁が精液でべっとりとしていた。よく確認するとやっぱり黄ばんでいる。犯人の特徴的な精液、すぐにホースで水をかけてしまう。
「あれ……これはもしかすると」
 次の日に、下着に被害がなかったので、それは確信に変わった。男性というものは、たしか何度も早々に射精できるものではなかったはず。風呂場を覗かせて、壁に出させてしまえば下着は無事というのは理屈だ。
「これはいいかもしれない」
 むしろ、サオリは堂々と風呂の窓の鍵を常に開けておくことにした。そうすると、下着への精液付着の被害はなくなった。あとは、目が覗いているのさえ気にしなければ平穏な生活が戻ってくるわけで、それもいつかは止むであろうと思えば、サオリは心安らかに数日間普通に生活を続けるのだった。

 数日間は平和のうちに過ぎたのだが、また異変が起き始める。
「下着がひとつない……」
 青と紺のスプライトが入った綿パンが多分なくなった。このまえ買って来たやつだ。日頃の生活パターンを変えるわけにもいかないから、やはり風呂場の窓を開けて見せながら入浴している。きちんと、目はこっちを見ている。
 もう「なんで見せてるのに、パンティー取ったの?」と覗いている人に聞いてしまおうかと思うぐらいだった。
 風呂から上がって、現場を確認していくと、べっとりと精子のかけられたやはりスプライトのパンティーが落ちていた。
「なるほど……こういうことね」
 つまり、犯人は今度はサオリのパンティーと裸体を一緒に楽しむ方法を覚えたということなのだった。なかなか厄介で、すぐに対処法は思い浮かばない。
「まあいいか……」
 パンティーも一枚手洗いして、次の洗濯のローテーションに回せばいいだけのことで、「明日着る下着がないよぉー」という事態にならなければ、当面は問題はない。
 お風呂場を覗かれている上に、下着でオナニーしたパンティーが落ちているということがしばらく続いたが、落ちてるものは洗ってまた乾かせばいい。もう放置しておくことにした。

 そんなある日、毎日のように盗まれていた下着が盗まれていないことに気がついた。むしろ、もう一枚ずつ盗られるのが日常になっていたので、なくなっていないことに少し驚いたぐらいだった。
 そうして、いつもの時間にお風呂に入っているのに、窓から人が覗く気配がまったくしない。もう心配になって、ガラッと窓を開いて周りを確認してしまった。それでも、あたりに人の気配はまったくしない。
「えっと……これってつまり」
 サオリはストーカーに勝利したということなのだろうか。
 ついに相手は、無視をし続けるサオリに飽きて、違うところにいったということなのだろうか。
 そうだとしたら、すごく嬉しいが、反面またこの大きな家で一人で取り残されてしまったという小さい悲しみがあった。両親が相次いで他界したのは、サオリが二十歳を過ぎたころのことで、ちょうど彼氏とも小さいいざこざが原因で別れてしまっていた。悪いことは続くものだ。精神的にすごく落ち込んで、大学もいかずに家で閉じこもるようにしてしばらく過ごしていたなあと思い出す。そのころに比べたら、今はすごく健全な生活ともいえる。
「なんで、私はこの家に残ろうって決めたのだっけ……」
 形見だから。でも、家にいたらどうしても一人じゃなかったころの生活を思い出してしまうのに、なのにいまも私はここで一人でいる。
「寂しいよう、お父さん……お母さん」
 サオリは、二十歳を三年も過ぎて立派な社会人になっているのに「まるで子供のようだ」ともう一人の自分が自分を情けなく思って笑う。それでも、一人を寂しがる子供は、きっとサオリの心の中に居て、やはり寂しくてしかたがないのだった。
 孤独は慣れるけど、なくなることはない。
 思わず長湯してしまったなと、風呂から上がる。身体を拭いて、新しい下着を着ようと思って気がついた。替えに置いておいた下着にべっとりと精液が付着している。
「またやったな……」
 まさかと思って、脱いで洗濯槽に入れた下着もパンティーがドロリとなっている。ちゃんと手洗いしないと、洗濯機まで汚れちゃう。困ったものだ。
 困ったものだ、嫌だなあとは思ったのだけど、不思議と寂しさは消えていた。もうちょっとだけ、サオリとストーカーの戦いは続きそうな気がした。
 明日はどんな手で攻めてくるのか。ちょっとだけ楽しみで、すごく迷惑。

 朝が来て仕事して夜が来て、広い家を毎日ちょっとづつ掃除して洗濯物も取り入れて。風呂にさっと入って、すぐに上がるとそこにいた人間と鉢合わせしてしまった。

「桑林課長……」
「やっ……やあ」
 会社の資材課長をしているおっさんが、下半身裸で立っている。しかも、股間には今日サオリが穿いていた青いレースが入った布パンティーを撒きつけて。
「ストーカーって、桑林課長だったんですか」
「ちが……違う! これは違うんだ……」
第五章「こわく」
 また風船おっぱい女、改め佐知の姉、改め山本麻美の中に射精した。ドピュドピュと、激しい射精に思わず腰を激しく振っていく。
 子宮口は開きっぱなしで、その近くで炸裂した若い精液を取り込むようにして、麻美の子宮の奥へとうねる様に流れ込む、幸助の遺伝子情報満載のおたまじゃくし入り粘液を飲み込んでいく。
 相変わらずの蠱惑的な肉襞である。優しく、そして強く。多彩な動きで魅了して幸助の若々しいカリを引っ張り上げるように吸って離さない。この時間停止した世界で、なんど射精したかわからない。
「あそこが、意思を持って動いてるようだな」
 それが、幸助にはとても嬉しい。
 時間停止の世界は、自分の自由にできて楽しいのだが、相手の反応がない点だけが、いまいちつまらない。相手の意思を無視して、肉体を蹂躙しているという自覚はあるので、幸助は贅沢をいっていられる立場ではないが。それでもだ。
 そんな中で、幸助の必死のセックスに、肉襞で締め付けて答えてくれる麻美は稀有な女性なのだ。
 そりゃあ、同級生を抱くのはとても興奮する。だから、最初の一発はいっつも佐知に出す。小さすぎる胸も、こなれてくるといいものだし、処女然としていたオマンコも、いい加減ビラビラがでてきて、うまく使えるようにはなってきたからだ。
 それでも、一発出したあとはいつも麻美をゆっくりと味わうようにして抱く。若い滾りを炸裂させるように、両手で大きすぎる胸の括れを握り締めながら、欲望のかぎりに二発、三発と出し尽くす。それが、若い幸助には心地いい。

 ここ数日で、山本姉妹の家の事情というのもわかるようになってきた。この駅前の3LDKのマンションに、姉妹で二人暮し。姉の麻美は一応社会人なのだが近くの公民館で小間使い程度のアルバイトしかしておらず、高校生の佐知よりも早く帰ってくることが多いというのんきな身分だった。そういうことなので、夕方にスーパー銭湯でくつろいでるところを見かけたのも納得がいく。
 麻美は年齢は二十四歳で、高校生の幸助がいうのもなんだが、まだ若い女性が外に遊びにも出かけずに家にすぐ帰ってくるというのは、健全を通り越して不健康なのではないだろうか。彼氏はいるかどうかわからないのだが、生活を観察していても、そのそぶりは見えない。高校生の妹がいるので、遠慮してなるべく見せないようにしているという可能性はあるが……。
 麻美の彼氏、それを考えると舌の奥で苦い味がする。ああそうか、自分は嫉妬しているのだなと幸助は気づく。相手の意志を無視して、勝手に犯している分際で、それでも麻美はもう自分のものだという、いっそ小気味がいいほどに身勝手な欲望が幸助を突き動かしていたのだ。
 妊娠するかもというリスクを承知のうえで、バンバン中に出しているのも結局はそういうことなのか。たっぷり射精すると、少し冷静になってみては反省する。自分はもっと、臆病というか慎重であったような気がしたのだが、ここまで後先考えずに大胆にことをやれていることが、時間停止の能力を得たのと一緒で何か自分の中の変化なのか。
 あるいは時間停止能力さえあれば「どうとでもできる」という確信。身勝手にできる世界を手に入れてしまえば、みんな考えなしの獣になってしまうのかもしれない。ばれないように後処理をきちんとやっているのは、だからむしろ幸助にしては相手にショックを与えないための優しさのつもりなのだ。

「こうちゃん……あいかわらず分かりやすい。最近は佐知のほうばっか見てるよね」
「そっ、そうかな」
 教室での休憩時間、時間はちょうどお昼休みに入ったところだ。すぐ昼飯に行くでもなく、ぼけっと友達と談笑する佐知を見ていた。「今日はどう抱いてやろうか」などと、鬼畜モードで後ろめたいことを考えていたのだ。いきなり後ろから、美世に指摘されたので、声が裏返ってしまう。
 学校では、大人しいシャイボーイのままの幸助だ。いや、それは時が動いているときはと言い換えたほうがいいのかもしれない。
「ルシフィアちゃんとも、また話してたでしょ」
「えっ……ああっ」
 ここ数日も、何かというとルシフィアはコンタクトを取ってきて話はしている。幸助はむしろ話したくないのだが、向こうは心で居場所を察知しているので校内では逃げようがないのだ。ただし彼女との話は、自分の能力にかかわることなので屋上や放課後の教室など、なるべく人の居ない場所で会話しているはず。
 幸助は気配を察する。美世には直接見られていないはずだったが、どこかで美世の情報網に引っかかっていたということは。誰かが二人でいるところを目撃したということ。
 自分はともかくルシフィアは目立つ生徒だ、注意しなければと冷静に思考して。一方で、美世に対しては少し焦る。忙しいことだ。
「別にこうちゃんの勝手だけどね、私は少し寂しいなぁステテテテン」
「うん……」
 なにが「うん」なのか自分でもわからず、幸助は少し鼓動を早める。憂鬱そうな顔で、自分の机うえにゴロゴロと転がっている美世。幸助自身が、誰とどうなっていようと、あいかわず幸助は美世が好きなのだが。
 そう考えて幸助も心の中でため息をつく。「寂しい」とか気のあるようなそぶりを、本気で寂しそうな顔で、何もないくせに口にできるのが美世という女の子だ。それを彼女をずっとみてきた幸助は知っている。
 だから、そこに何もないということは分かっているのだけど。好きな子に、そう声をかけられて嬉しくないわけはない。
「それともあれっすか、これが噂のリア充ってやつっすか。私からの巣立ちってやつですか。自由を知るためのバイブルですか、ハーレムルートってやつですか」
「全部違うと思うが」
 たしかに、幸助は変わったのかもしれない。だが、誰かから好かれているというわけではないのだ。肉体的には満足しつつも、どこか精神的に満足しきれていない片思いのようなもどかしさが時間停止能力にはある。
 ただ、身体の繋がりがあるというのは本当に不思議なもので、あれから佐知とよく話すようになってきたのだ。帰宅部と陸上部では、共通の話題はほとんどないのだが、見かけたら必ず挨拶するようにはなってきている。
「いやっー、私の中に入ってこないでぇー!」
 ふっと自分の思考の中に埋没して、はっと気がついたら、なんか美世が、机に寝そべったままで耳を塞ぎながら軽くキャラ崩壊を起こしつつあったので、自分の中の美世への憧れを守るために足早に食堂に向かうことにした。
 なんか教室から「おおい、こうちゃん、放置かよ! いじけてる私を置いて放置か!」とか聞こえてきたが無視して走る。
 こんなときに、どう対応していいかわからないのが幸助だから。

「幸助さん……」
「おい……」
 こっちは無視しきれなかった、食堂に向かう廊下でルシフィアの声。お前こんな時間にこんなところで誰かに見られたら……と、怒ろうかと思ったが、周囲にはいつの間にか誰も居ない。
「こんな時間でも、スッと人がいなくなることもありますね」
「お前……今はいいが、見られてないつもりでも、斎藤とか多分、その知り合いか知らないけど見られてたんだぞ!」
「美世さんですか、彼女にはわざと見せたんです」
「なんでそんなこと」
 わざと見せただって……あいかわらずこの女は、意図が分からない。
「結論から先にいうと、斎藤美世さんはあなたのことなんてなんとも思ってないですよ」「そ……そんなこと……俺は聞いてないだろっ!」
 幸助はもう叫んでしまった。ルシフィアは、幸助が『一番言われたくなかったこと』を何の前触れもなく言いやがったのだ。
 たしかに、幸助は心が読めるルシフィアに聞きたかった。
『美世が自分をどう思っているのか』
 ……でも、聞きたくなかった。答えが分かっているような気がしたから、知りたくなんてなかったのだ。
 その残酷な答えは、不吉な予言のように耳に響いてしまう。
「いらないものでも、他の人に持ってかれるとなんとなく嫌なことってあります」
「うるせえ、俺だってわかってるんだよ」
 それ以上何も聞きたくなかった。ルシフィアは恐ろしいほどに酷薄な笑みを貼り付けていた。怖い笑み、胸糞がわるい笑み。相変わらずこいつは性格が悪い。人の心を、全部分かって、全部理解して、そのうえで弄んでいるのだ。幸助の心も……ああ最低だ。
 幸助は、我慢しきれずに走り出した。

 そりゃそうだろうよ、美世は幸助のことなんとも思っていない。幸助だってそれに期待するほど馬鹿じゃないんだ。
 でも、人の心が読めるあいつに言われてしまえば、それは……『確定』ってことだ。
 モヤモヤとした心のままで、それ以上は考えまいと心を暗雲に落として、幸助は食堂へと入った。

 幸助の友達は、いつもどおり人を寄せ付けない奥の長机に座っていた。年代ものの長机の上には、不釣合いに純白のテーブルクロスが引かれて本格フレンチといった風情でマサキは皿の上の肉を切り分けている。普段の鷹揚な様子とは違い、こうなると中々器用にテーブルマナーを使い分けている。気品とまでは行かないが、なかなか貫禄を見せていた。あと、高校の食堂で堂々とワインはまずいだろ!
 高校一年生で、貫禄というのもおかしな話だがマサキとはそういう風格がある男だった。その横には、黒を基調にしたメイド服の上に白いレースのエプロンをつけたとても小柄な女の子が恭しく給仕している。可愛らしい感じなので、本当のメイドさんではないのだろう。学生服を着てマサキと連れ立って歩いているのを見たことがあるので、マサキが趣味で同級生にメイドのコスプレをさせているというあたりか。
 それにしても、一糸乱れぬプロらしい給仕なのだが。
 生徒手帳を見ても校則でコスプレ禁止とか、学食でフレンチ禁止とかはわざわざ書いてないわけだが、それは常識的に考えて駄目なわけで、やってたら普通科の生徒でも先生に注意されると思うのだが……マサキの周りだけは、なんでも許されるのか。
第四章「ぱん」

 幸助が朝の電車に乗り込むと、待ち構えていたように……というか、本当に待ち構えていたらしい美世がジトっとした目で睨みつけてきた。朝の停滞した空気がいっぺんに冷える。
 美世に獲物を狙う猛禽類みたいな目で見つめられて、目が覚めた。
「なんで、この時間にこの車両に乗るって分かったんだ」
「そんなことはどうでもいいよ。さあっさあっさあっ! こうちゃんとあの金髪美少女が、どういう知り合いなのかキチキチと説明してもらいましょうかね」
「あのな……」
 不機嫌そうだが、そのわりに楽しそうでもある美世に首根っこを掴まれる。朝からこんな詰問を受けるとは思っても見なかったが、きちんとした言い訳を用意しておいてよかったと言うべきだろう。
 幸助の説明は、ルシフィアは安西マサキに興味を持っていて、学校でのマサキの唯一の友達である幸助に近づいたというものである。実際、ルシフィアが幸助の能力に気がついたのはマサキに注視を向けていたからでもあるし、嘘というわけでもない。
「ふーん、よろしい。なるほど納得した」
「えっ、もう納得したのか」
 激しい詰問だったので、あっけないほど早く納得されて逆に幸助は驚いた。
「うん、ルシフィアちゃんがあの魔王に興味を持つのはわかるもの」
「えー、そうなのか、どうしてだ?」
 いつのまにか逆に聞き返していた。
「幸助くん魔王の友達なのに知らないんだ……魔王は普通科なのに全国模試ですごい好成績だったんだよ。なんで特進科に来ないのか分からないぐらい」
「そうなんだ、それは知らなかったな」
 美世は顔が広いというか、学校の揉め事に顔を突っ込むのが趣味みたいなところがあるから、こういう話をよく知っている。
「ルシフィアちゃんも、噂だと一年ではトップクラスでしょ。私の推理では、たぶん魔王が同じ一年で模試に名前が近いところにあったから気になったんだよ」
「なるほどなあ」
「いやー、変な理由だけどあの金髪美少女と話せてよかったじゃん!」
 そういってバンバンと背中を叩かれた。機嫌が直ったのはいいのだが、狭い車内ではた迷惑な女だった。
 おそらく美世の推理は間違っている。あのルシフィアが、ただ成績がいいというだけでマサキをマークしていたわけがない。もしかすると、マサキも何かの能力者なのだろうか。聞いても素直に教えてくれるかどうか分からないが、探りを入れてみる価値はあるかもしれない。

 二限目の終わりだった。幸助は少しでも疲労を回復しようとして、寝ようと机に伏せた顔をすぐさま起こした。
 濃厚な気配を察知したからだ。この意味ありげな視線には心当たりがある。
 ふっと廊下を見ると、一瞬何かが見えた気がした。いや、気がしたのではなく見えてしまったことは認めざる得ない。
 すこし、無言で考え込んだが、幸助は諦めたように立ち上がると廊下に出る。
 今度は、階段を駆け上っていく淡い金髪が見えた。
 いや「見せているのよ」ってわざとらしさだ。二年の教室に、ルシフィアが他に用があるわけもないだろう。
 相手の「ついてこい」という明確な意図を感じて、思わずこのまま気がつかなかったことにして自分の席に戻りたくなる。
「はぁ……」
 平和条約か脅迫かは知らないが、いまの幸助の立場で誘いを断るのは得策ではないだろう。
 ため息ひとつついて、歩いて階段を登っていく。やはり、屋上の昨日と同じフェンスにもたれかかりながらルシフィアが満面の笑みで待っていた。
「……何のつもりだ」
「ははは、まんまと誘い出されましたですね!」
 腰に手を当てて、仁王立ちだ。二人の間を、乾いた空気が一陣の風となって吹き抜けていく。
「……」
 帰りたい、自分の席に帰って寝てしまいたい。ルシフィアはこっちの心が読めるはずなのだから、言わなくてもそんな幸助の気持ちは理解しているはずなのだが。
「私に聞きたいことがあるのでしょう。せっかく来てあげたのに挨拶もなしですか」
 たしかになぜ、マサキをマークしていたのか聞きたいとは思っていたのだが……わざわざ十五分の休憩時間に屋上まで呼ぶことはないだろう。
「それに、もうちょっと、普通に誘えばいいだろう」
「あなたの席までいってお誘いすればよかったんですか」
「……それも困る」
「せっかく言い訳がうまくいったのに、また隣の美世さんがどういう化学変化を起こすか心配だからですよね」
 そういってクスリと笑うのが幸助の癇に障る。どうして、ルシフィアと会うのに美世に言い訳しなければいけないのかという揶揄もこめた笑いだろう。少なくとも、幸助はそう受け取った。
「時間がない、用件を済まそう」
「…………結論から先にいうと、安西マサキさんは普通の人間です」
「そうか」
 少し安心した、マサキとは気の置けない友達でいたかったからだ。少なくとも、この目の前の金髪少女のように、お互いの能力を誇示しあって牽制するような付き合い方はしたくない。
「美しい友情ですこと……ただ、マサキさんは後天的に大変訓練を積まれたらしくて、人の心を操る術を心得ているようです。バックにも組織のようなものがあるみたいですが、今のところ私の脅威にはなりえません。ただ警戒だけはしているということですね」
 そういって、なぜか詰まらそうに言った。ルシフィアにとって、幸助とマサキが仲良くしているのは面白くないのだろう。
「用は済んだな」
 そういって、幸助は帰ろうとするのだが。
「あの魔王は、つまらない男ですよ……あなたが付き合うほどの価値はありません」
 はっきりと聞こえた呟きに、幸助の足が止まる。
「俺が何を考えているか分かっているのだろう、挑発のつもりか」
「いいえ、私は事実をいったまでです」
「友達に対する侮辱は許さない、お前がマサキくんに手を出すことも……」
 振り返って、幸助は読心女を軽く睨みつける。釘を刺しておく必要を感じた。
「あの男は、この学校の半分を自分の支配下に置いただけで満足している小人ですよ。魔王? ……ふっ、笑わせます。人の心を気ままに操って、自分の欲望を満たしているだけの下郎です」
「だからなんだ……友達であることに変わりはない」
 ルシフィアは、何かを探すように幸助を見つめてきた。何を探すというのだろう、幸助は怒りをもって見つめ返すだけだ。周りの光を全て吸い寄せるような、深く青い瞳の奥には何かの感情の色が見えた気がした。今の幸助には、それは分からない。
 ルシフィアは人の心が読める。人の心が読める力は、たとえばこの屋上に幸助を誘い出したように、いろいろと応用が利く。不信を煽って、マサキと幸助を分断するつもりなのかもしれない。そこまで思考したときに、ルシフィアが頭を下げてきた。
「いえ……すいませんでした。私にはあなたの交友関係に口を出す権利も、こちらから魔王に手出しする意志もありません」
「分かればいい、こちらも声を荒げてすまなかった」
「すまなかったなんて思ってないくせに」
 心が読まれる相手とは、本当に会話がやりづらい。
「まあ、もう帰る」
「では、また……」
 ルシフィアの声を後ろに聞きながら、振り返らずに階段を駆け下りた。またといわれても、ルシフィアと話す用事は幸助にはもうない。

 昼休み、教室から美世たちが弁当箱を抱えて楽しそうに出て行くのを見送って、そろそろ自分も昼飯にするかと腰を上げた。今日も特に何もないので、食堂にいくことになるだろう。前にも言ったが、友達のマサキが席を確保していてくれるので、席取りに急ぐ必要はないのだ。
 廊下に出たとたんに、すごい勢いで走ってくる女の子がいた。細身の割には、女性らしい体つきをした女の子、たしか昨日食堂で見かけたマサキの彼女の一人の……希ちゃんだったか。
「よかった、教室に居てくれましたか」
 そういう希ちゃんは、なんだかとても顔色が悪かった。
「居たけど、どうしたの」
「とにかく早く食堂にいってください」
「いや、昼食時だから俺もいまから行こうとは思ってたけどさ」
「ご飯まだ食べてないですよね」
 変なことを聞く、食べてないから食堂に行くのだろうと答えると。「よかった」とよく見ると意外に豊からしい胸を撫で下ろした。
「いったいどういう」
「マサキがピンチなんです、とにかくあのままだとマサキが死んでしまうかもしれない、急ぎでお願いします。私は申し訳ないけどもう駄目、しばらく何も食べられません……ううぅ」
 そういって、苦しげに口を苦しげにハンカチで押さえながらトボトボと歩いていった。ピンチと聞いて、もしかしたらルシフィアが何かしたのかと慌てて食堂に向かう。でも、何も食べられないってどういうことだ。
 食堂に入ると、マサキが机に突っ伏しているのが見えた。隣には、不機嫌そうにマサキを見つめている女の子が座っている。マサキに女の子が付属しているのは、いつものことなので驚きはしないが、あのダントツにいい容姿には見覚えがある。あれはたしかマサキの本妻って娘じゃなかっただろうか。
 幸助が近づいていくと、マサキは顔を上げて「ああっ……よく来てくれた」と苦しげな声を吐き出した。まるで地獄で仏に出会ったような目の輝きであったが、その顔には明らかな死相が浮かんでいた。
 机の上には、ランチシートが広げられ、小麦色の物体が大量に並んでいた。様々な形に焼き上げられたそれは、たぶんパンなのだろうが、なぜか幸助に縄文土器を思わせた。
「こんにちわー、たしか二年の富坂先輩でしたよね」
「ああっ、こんにちわ……えっと」
「一年の鳥取ツバメです、マサキの友達です」
 そういって、幸助にはよそ行きのスマイルを浮かべてくれた。その可愛らしい笑顔は、なんとなく美世に似ているなと思ったけど、やっぱり似ていない。美世の何倍かは綺麗で、胸が二周りぐらいでかくて、そしてマサキに向ける顔が百倍ぐらい険しい。
「えっと、これはどういう?」
「パンです」
「はい?」
「パン」
 ツバメはそういって、その縄文土器風のパンを千切ってマサキの口に放り込んだ。マサキは、それをゆっくりと咀嚼してから身体を痙攣させ「おいしいなあ」と魂が抜けるような声で叫んだ。数秒置いて「でもそろそろお腹が一杯だなあ」と、辛うじて聞こえる声で呟いた。
 状況はよくわからなかったが、現状はわかった。つまり、ツバメがマサキにパンを食べさせているのだ。
「そうだ……幸助くんもご飯まだだったよね」
 そういって、マサキがこっちに身を乗り出してきた。何故か、手が合掌のポーズをとっている。つまり、これは食ってくれというお願いなのだろう。
「富坂先輩も、もしよかったらどうぞ。たくさんありますから」
 そういって、またパンを千切ってマサキの口に中に放り込んだ。壊れた機械のように「おいしい」を繰り返している。幸助にはそのおいしいが「たすけて」に聞こえた。
「じゃあ……遠慮なくいただこうかな」
 それなりの覚悟を持って、目の前の縄文土器を一つ手に取る。多少形はおかしいけれど、外見上も手触りも普通のパンである。朝焼いたものなのだろう、千切って匂いを嗅いで見ると香ばしい小麦の香りがした。
 なんだ、普通においしそうじゃん。そう思って、幸助は口に入れた。
 その瞬間に、幸助は宇宙を見た。
 深遠なる宇宙空間に、一人幸助は漂っていた。何も見えず、何も聞こえず、どちらが地面かも分からない不安に押しつぶされそうになっていた。宇宙はただの人が生きていけるほど甘い環境ではない。その真っ暗い地獄の中で、幸助は絶叫して……。
「……で、マサキのやつが私の料理を食べたいっていうから、炊飯器でパンが焼けるっていうのをやってみたんですよ」
 どうやら、身体のいくつかの感覚が異常をきたしていたらしい。決して不味いわけではない。これは不味いとか、もうそういうレベルではない。神経に異常をきたす薬物でも混入しているのか。徐々に身体の感覚が戻ると共に、目の前のツバメが楽しげに喋っている言葉も聞き取れるようになっていた。
「お味はいかがですか?」
 ツバメが、何かを期待しているような輝く瞳で幸助を見上げていた。可愛い娘の妹的な上目つかいは卑怯すぎるのではないか。高一の分際で、机の上に乗せられるほどの巨乳も、制服からのぞく蠱惑的な胸の谷間も全てが校則違反に該当する。そうして、その隣では死ぬほど青い顔の友達がこちらを拝むように手を合わせていた。
 諦めたように腹筋に力をいれると、幸助は声を絞り出した。
「……おいしいなあ!」
「よかった……もっと食べてください!」
 たっぷりと三十分かけてなんとか幸助は、縄文土器パンを一つ食べ終えた。これをアフリカに配れば食料問題が解決するかもしれない。同時に、人口問題も解消するかもしれない。
 昼休みが終わるチャイムをこれほど待ち焦がれたのは、初めての経験だった。


第三章「るしふぃあ」
「斎藤……なんで着いて来る」
「さあ、なんでだろうね」
 授業が終わったら、たいていは速攻で帰る帰宅部の幸助と違って、斎藤美世は委員会活動やらなんとか同好会やらを掛け持ちで三つもやっている。美世は、付き合いがいいというか、誘われると断らない性格なのだ。
 だから、行きは同じ電車通学だから一緒になることも多いが、帰りは一緒になることはほとんどないのだが。
 今日は何故か、帰ろうとする幸助に美世がついてきた。いっつも、美世の背中を幸助が追いかけるのだが、珍しいこともあるものだ。
「まあいいけどさ」
「今日のこうちゃんは、なんか一日中様子がおかしかったからね。倒れたりもしたでしょう。心配だから帰りは一緒に付き添ってあげようって、優しさ?」
「いや、疑問系で問いかけられてもな」
 心配されるのも当然かもしれない。たしかに、今日はいろんなことがありすぎた。今後のこともあるから、家で休みながらゆっくりと考えてみたい。
「あー、あっちから来るのって、一年のルシフィアちゃんだよね。うあ、相変わらず超絶に可愛い……」
「そうだな……」
 超絶に可愛いなんて日本語があるかどうかしらないが、物事を可愛いか可愛くないかの二択で判断しがちな美世にとって、確かに可愛いの最上級に置かれるべき存在ではあるだろう。幸助はルシフィアの印象的な髪の色に見とれながらも、あれは可愛いではなく美術的に作られた美しさだろうと思う。たとえるなら色彩豊かなに描かれた絵、見るもの全てに向けられる暖かい笑顔はどこか作為的で、幸助はそこに冷めた意志を感じた。
 佐上ルシフィア、幸助たちと同じ特進科の一年だ。あまり他の生徒に興味がない幸助でもさすがに知っている。入学してきたときは、結構な騒ぎになった。柔らかな金髪と吸い込まれるような青い瞳は、明らかに日本人のものではない。
 佐上の家は昔からの大地主で、吾妻坂のど真ん中の広大な敷地にコンドミニアムみたいな場違いな洋館を建ててるので有名だ。あの佐上の家の娘なら、結構なお嬢様なのだろうが、ルシフィア自身はハワイからの帰国子女だという話は聞いた。むしろあの白皙の肌を見れば、日本人よりコーカソイドの血のほうが濃そうだ。
「うぁ、やば、こうちゃんこっちくる、こっちくるよ!」
「えっ、あっ、斎藤が見すぎなんだって……」
 あまり不躾な視線を飛ばしすぎただろうか。ルシフィアは、爽やかな笑みを絶やさずにこっちに向かって一直線に歩いてきて、幸助たちの目の前に止まった。
「アイキャンノットスピークイングリッシュ!」
「いえ……日本語は話せます」
 興奮気味にテンパッた割りには頑張った美世の渾身のギャグは、軽く受け流された。実に流暢な日本語と、空気を乱されないスルースキルに幸助は感心する。
「ごきげんよう、二年の富坂幸助さんですよね」
「うあ、こうちゃん知り合いなの」
「いや……」
 声をかけられるまではともかく、まさか名前を呼ばれるとは思っていなかったので焦ってしまった。幸助は初対面だし、てっきり美世のほうに何か用事なのかと思ったのだ。
「帰宅の途中に申し訳ありませんが、少しだけご同行願えませんか。急ぎで、大事な話があるのです」
 たぶん始めて耳にするであろう、ルシフィアの声は、涼やかで甘美な響きだった。まるで人を魅了するために創られたような完璧な音程は作り物めいていて、なぜか危うい気がした。
「えっ、同行? こうちゃん私どうしたらいいの」
 美世は展開についていけずに、混乱しているようだった。相手の意図がつかめずに、幸助も負けず劣らず混乱していたのだが。
 ルシフィアはいつのまにか距離をつめていた。そうして、幸助の耳元でささやいた。
「あなたの力のことについてです」
 幸助の身体がその一言で凍りついた。

 美世に謝り倒して先に帰ってもらった。「あとで説明してもらうからね」とか怒りながらも、さすがにルシフィアには抵抗できなかったのか帰っていった。幸助の力の話なら、誰か他の人間に聞かれるわけにはいかない。絶対に。
「ここなら、誰にも聞かれる心配はありません」
 無言で先を歩く、ルシフィアについていくうちに屋上に出てしまった。少し日差しは強いが、屋上はいい風が吹いている。
「なぜ、そういいきれる」
 そういいながら、幸助の頭は冷え切っていた。金髪美少女のルシフェアが一緒でも、浮ついた気持ちになりようがない。絶対に知られてはいけない、あのことが知られている。痕跡は残していなかったはずだ、なのにどうして……。
 屋上のフェンスに手をついて、本当に純金で作られているような明るい髪を風にさらして微笑む姿はドラマの一シーンのよう。だが、その振り返った笑顔を見て、また幸助はぞっとする。それは、先ほどまでの媚びるような柔らかい微笑ではなくて、なぜか酷薄な冷笑だったからだ。
「近くに思考する生き物がいたら、私にわからないわけがないからですよ」
「言っている意味がわからない」
 そういいながらも、幸助は必死に考える。脅迫つもりなのか。
「脅迫するつもりはないですよ、とりあえずはただの自衛です」
「えっ……」
 この女は、もしかすると……。そう思考した幸助を睨んで、目だけで笑うルシフィアにあらためてぞっとする幸助。
「私だけ知っているのは不公平というものですね。そうです、いまあなたが考えたとおりですよ、私は人の心が読める能力を持っているのです」
「ありえない、いや……」
「そう、普通ならありえないと思いますです。でも、あなたなら私のような能力があることを信じられるはずですよ」
「そうだな、時を止める力があるのだから心が読める人間が居てもおかしくない」
「むしろ私のほうが、昼にあなたが安西マサキと話しているときに心を読んだとき、ただのよく出来た妄想だと考えていたのですが」
 あの時、マサキと昼食を共にしていたときに感じた視線は、美世のものではなくてルシフィアのものだったのだ。遠目から観察しながら、幸助の思考をずっと観察していたに違いない。それにしたって。
「なぜ本当だと分かった……いや、気づかれた」
「あなたが午前中に悪戯した如月先生ですよ、一年の数学も担当してますから。彼女はちゃんと違和感を記憶していました」
「そうか……」
 幸助は、自分に特別な力が現れたときに、そういう人間が他に居てもおかしくないと考えるべきだったのか。そうすれば何らかの対処が出来たかもしれないと。
「それはどうでしょうね、情報収集という意味では私は絶対的な優位にありますから、どう用心しても最終的には私に察知されてましたよ」
「もう言い逃れの仕様もないな、それでどうするつもりなんだ」
「脅迫というのは、人聞きが悪いので平和条約を結びませんか」
「平和条約?」
「私の身にもなってくださいよ、時間が止められたら私にはどうすることもできないんですから、私は美少女ですからあなたに襲われたら困りますです」
 そういって酷薄さを消して、可愛らしく手を前で組んで媚びたように笑顔を浮かべる。幸助に向かって祈るような姿は、たしかにさまにはなっている。だが、幸助はもうそれを同じように純粋で美しいものだとは思えなかった。思えるはずもない。
「確かに、情報的にはそっちが上だが時を止めてしまえばこちらに分があるな」
 これは極論だが、この力を使えば相手を殺してしまうことだってできる。
「私が、自分の身を守るために何も対処をしてないとは思わないでくださいね。いくら時間を止めても、素人が証拠を完全に消し去るのは難しいですよ……それにあなたは人が殺せるような人間ではないはずです」
 そういって、ディープブルーの瞳で幸助の本心を見通すように覗き込む。いや、引き込まれるなと踏みとどまる幸助、これはただの威圧。ルシフィアはその気になれば、目を瞑っていても心が読めるのだから。
 この相手には嘘はつけない。思考は常にトレースされる。だから、とりあえずルシフィアと争うメリットがないと思考する自分にむしろほっとした幸助だった。
「……わかった、何を約束したらいいんだ」
「幸助さん、私はね。自分以外の人間のことはどうだっていいんですよ。だから、私に危害を加えないこと。とりあえずは、それだけでいいです」
「ありがたい条件だな、それで手を打とう」
「じゃあ、握手です」
 そういって、伸ばされた繊細な指先に幸助は少し躊躇する。やがて握り締めたその手は小さくて、びっくりするほどに冷たい。手が冷たい人は、心が温かいとは誰が言ったのだろう。そんなわけがないのだ。
「じゃあ、話は終わりだな。俺は帰る」
「幸助さん!」
 ルシフィアの手を解いて、帰ろうと駆け出した幸助の背中に声をかけるルシフィア。幸助は一瞬だけ足を止めたが、今日はこれ以上話す気もなくて足早に階段を駆け降りていった。一刻も早く、ここから離れたい。それに、いまから急げば、美世が乗るだろう帰りの電車にまだ間に合うかもしれない。
「私は……あなたと仲良くしたいんですよ?」
 心が読めてしまうルシフィアには、幸助がかまわず帰ってしまうことも分かっていた。だからあとは独り言にすぎない。
「私が、相手の心を読むような気持ち悪い女でもです」
 相手を完全に理解するルシフィアは、その代償として決して人には理解されることがない。特別な力を持って生きてきたルシフィアは、その力が自分にとって呪いにも似ていることを知っている。幸助だって、それを思い知るときが来る。
「……きっと来る」
 それは、相手に媚びるための笑みでも酷薄を演じた冷笑でもなく、その日ルシフィアが初めて浮かべた心から満ち足りた笑顔だった。

 帰りの電車に揺られながら、今後のことを思案する幸助。
 残念ながら、ホームを探したけど美世はすでに帰ってしまったらしくどこにもいなかった。もしかしたら、待っていてくれるかもしれないなんていうのは、考えが甘いってことだ。
「もう、学校で悪戯は無理だよな……」
 ルシフィアは自分に手を出さなければいいと言っていたが、そんなことができるはずがない。学校でやれば自分の性行為を彼女に覗き見されているようなものだ。幸助でなくても、そんな状態でチンコが立つほどの胆力を持った高校生はまずいないだろう。
 だが、こんな便利な力を得て、使わないという選択ができる高校生もまた居ない。
「やるなら、学校の外でだな」
 とりあえずは、それが無難というものだ。自分の通う学校で悪戯という趣きも捨てがたいものはあるが、よくよく考えたら、自分と接点がない場所のほうが発覚を気にせずに自由にやれて都合がいいかもしれない。
 そう考えると自宅の近くも避けるべきだろう。そう考えた矢先に、幸助は何かを思いついたように自分の降りる駅の一駅前で途中下車していた。
「ふふ……」
 なんだか楽しくなってきた。よく考えたら、高校に入ってから途中下車なんてするのは初めてかもしれない。幸助の降りる駅の一駅前は、飯野という地名だ。
 吾妻坂を新市街地とすると、飯野は旧市街地の中心に当たり、県の公共施設と共に中小のオフィスビルが立ち並ぶ。少し雑然としているが、駅前は三階建ての古い駅ビルがあって各種娯楽施設も一通りは揃っている、遊ぶ場所には困らない。
「吾妻坂でだいたい用事が済むようになってきてるから、最近は微妙に寂れてきてるけど」
 ちょっと前までは、幸助もよく飯野駅に遊びに来たものだった。久しぶりに駅前に降りてみたが、ここは良くも悪くも代わり映えしない。団地はないがマンションが多いので、ここから通っている生徒も多いのか、うちの学校の生徒の姿も駅前にちらほら見える。
 まあ今回はそっちが目的ではないので、スルーしてズンズンと歩く。
 幸助は店が多いほうではなくて、マンションがたくさん立ってる側のほうに歩いていった。お目当ては、最近古い銭湯からようやく建て直したスーパー銭湯である。時刻は夕方、まだ時刻が早いので客が少ないかもしれないが。
 時間を止められるようになった男子高校生にアンケートをとれば、まず行きたい場所第一位に輝くであろう女湯である。
「……わる」
 歩きながら、ゆっくりと時間を止めていく。道を歩いている通行人や車が速度を緩めて止まり行く姿は、自分の力を改めて認識させてくれる。夕刻の喧騒に包まれていた街が、ジーと耳鳴りがするほどの静寂に包まれる。
 この世界で、動けるのは幸助だけ。
 そのことに励まされつつ、意を決して「女湯」の暖簾を潜る。男子禁制の聖地へといま足を踏み入れる。入り口は狭いが、入ってみると結構広い。大き目の脱衣ロッカーが三つほど並んでいて、脱衣所にも数人の女性と昔は女性であった人がいた。
「人が少ないから、余計にガラリとしているのかな」
 若い方は二十代そこそこといった感じだった、学生か仕事を早めに切り上げてきたOLか。服もほとんど脱ぎかけという感じであったが、変にやせぎすで容姿も幸助の好みではない茶髪女なので性欲をあまり感じない。
 幸助は午前と午後で、一回ずつ抜いているのである。いくら、一日五発が可能の高校生といっても、性欲を感じるほうがおかしいのかもしれない。少なくとも、落ち着いていいぐらいではあるはずだ。
 幸助も別に、今日ここでどうこうするとかにこだわっているわけではない。目ぼしい女がいなければ、女湯に入ってそれで満足して帰ってもいいぐらいに考えていた。だから、脱衣所で服を脱いで入った途端に、すごくいい女を見つけたときは自分の幸運を信じたのだ。

 それは言葉にしてしまえば「自分はこの人とセックスをする」という確信。
幽体離脱体験5
 記録を調べてみると五ヶ月ぶりの明晰夢。明晰夢という現象があったことも忘れているような時間がたって、久しぶりに夢の中で意識を持って動けたのは嬉しかったのだが。日記を書いているので、特異な夢の記録は軽く書いているので、その影響は少しはあるのかもしれない。
 幽体離脱、ベットから抜け出して魂が自由行動するような強いインスピレーションがあるときと違い、明晰夢というのは、夢を連続で見ているときに、たまたまこれが夢で現実ではないことを気がついて自由に動けるという感覚である。
 二度寝してしまったので、実は詳細には夢の内容を覚えていない。どこかの駅のエントランスから降りてくるあたりで、明晰夢であることに気がついて、それでホームの向こう側の民家に入って見たのはいいけれど、誰も居なくて。慌てて駅のほうに戻ってきて、すこし悪戯してみた程度。

 二人ぐらいの貧乳のお姉さんの胸を服に手をいれて揉んだぐらいのものだった。キヨスクの娘をみたんだけど、おばさんだから止めとこうとか。冷静なのか、テンパってるのか分からないなあ。まあ夢の中での行動だから。
 いい子がいないかと探しているうちに、次第に夢がぼやけてきて。印象的だったのが、壁を叩くと夢が戻るというのが始めて成功したぐらい。
 それも、駅構内に入っていく階段あたりで、力尽きて。身体が動かなくなり、自分の手が少しづつ消えていくのを感じていた。そこで、人を食えばいいというのを思い出したが、もう目の前に居る人は、不明瞭な化け物のような姿になっていて、食うどころではなく目を覚ました。

 鮮明な印象ではなかったので、そのまま寝ぼけてしまって二度寝したので鮮明な印象が消えた。夢の内容を一応記憶していることのほうがすごいぐらいだと。
第二章「ともだち」
 体育館の横に併設されている、購買部と大き目の多目的食堂。
 石畳の上に長机が大量に並べられている。幸助は弁当持ちではないので、ここで軽食を取ったりパンで済ましたりするのがいつもの昼食である。今日はあまり食べる気がしなかったので、菓子パンを二つだけ買った。
 長机は昼食時は混みあう、どこも生徒で一杯になっている。普通科も特進科も、昼はみんなここに殺到するから当たり前なのだが、幸助が座る席を心配することはない。一番奥の長机だけは、ある人物を除いて、誰も座ることはないからだ。幸助もいつもそこに便乗して座らせてもらっている。
「やあ、今日は遅かったね……富阪幸助くん」
 そうやって声をかけたのが、長机の真ん中に一人腰掛け、サイズの大きすぎる学生服を纏うようにゆったりと着崩している男子生徒だ。だらしない服装なのだが遠めからだと、まるで邪悪な魔術師が黒ローブを引きずって歩いているようにも見えて、似合わないこともない。顔は、オタクっぽい青白い顔。体型は、小デブ。高校一年生のはずなのに、すでにおっさんの気風を漂わせているこの男が指定席にしているので、この一番奥の長机が他の生徒に避けられているのだった。
 いつも、すごい美人を連れて歩いている。今日は、細身でショートの女の子が後ろに無言で佇んでいた。
「呼吸が少し乱れているな……悪いけど希。飲み物を買ってきてくれ。幸助くんは砂糖なしのカフェオレでよかったよね。ぼくはブラックで」
「あのっ、安西さん」
「さん付けは止めてくれって、ほんとは二年の幸助くんのほうが先輩だろう。マサキでいいさ」
 そういう男の双眼は鋭い。身体からは威圧感が漂い、その口から吐き出される言葉一つ一つが、ある種の力をもって耳に響く。一言でいってしまえば、段違いにやばい奴という空気。
 吾妻坂高校普通科一年、安西マサキ。いわく学校中の不良を叩き潰しては手先に使っているだの、女子は視界に入るだけで妊娠して、男は立たなくなるだの、伝説的な悪評が立っているこの男は、それでも幸助にとってはいい友人だった。

 二人の出会いは、すでに半ば時代遅れになってしまっているネットゲーム。マサキは、そこの広場で「俺はリアル高校生だ」「自分の王国を持っている」「妻が三人いる」とか馬鹿げたことをいつも口走っている馬鹿、基地外扱いされて無視されている有名な厨房だった。
 どんな人の話も真面目に聞いてしまう性格の幸助は、絡まれて無視しきれずにいつのまにか友達になっていた。実は同じ高校に通っているということで、リアルでも知り合ったのだが、まさか本当に年下で、吐いていた妄言が全部に事実だったとは考えもしなかった。

「カフェオレです、砂糖抜き」
 いつのまにか希が幸助の後ろに居たようだ、目の前に飲み物が置かれる。ちょっと見覚えのある美人だが、この人って去年全国行った、陸上部期待の新人って女の子じゃなかったかな。小銭を出そうとすると押しとどめられた。
「コーヒーぐらい、友達におごらせてくれよ」
 手を広げて邪悪な笑いを浮かべるマサキ。何かというと友達を強調するのは、この元イジメられっ子にとって、幸助は貴重な存在だからだ。悪評が広がっているため、友達といえる人間は幸助ぐらいしかできなかった。周りにあるのは敵意と服従、それは王の孤独というものである。
「ああ、分かったよマサキくん」
「ところでどうした、遅かったし顔色も優れないようだが……なにかあったか」
「あっ」
 なにかあったかというマサキの言葉で、思い出してしまう。覗き込むマサキの静かな目は、幸助の全てが見通されているようだった。
「別に話せないことならばいい、そういうことは誰でもある」
「……うん」
「だが、もし本当に困ったことがあれば相談してくれ。ぼくはこの学校の王だからな、たいていの不可能は可能にしてやれる。遠慮はするなよ」
 そう幸助を気遣って、友達がいのあることをいってくれる。マサキはこの学校で異様に恐れられているが、やっぱり根っこはいいやつなのだ。
「ありがとう」
 だから素直にお礼がいえる。起こってしまったこと、それで変わろうとしている自分がやっぱり恐ろしかったが、幸助は少しほっとして菓子パンの袋を破って、ぼそぼそと食べ始めた。
「あと、この玉子焼きだけでも食べないか。愛妻弁当を食っている前で、菓子パンを食べられるとな」
「ああ、ありがとうもらうよ……美味しいね」
「そっそうか、それはよかった。理沙が張り切って作りすぎたみたいでな、このウインナーも食べるか?」
 忌み嫌われているマサキのテーブルに座って飯を食っている幸助を、近くの生徒が「なんだこいつ」って感じでジロジロみていたが別に気にならなかった。学校に友達が少ない幸助にとっても、マサキは大事な友達なのだ。だから、楽しい食事ができた。

「こうちゃん大丈夫だったの、身体」
 自分の席に戻ると、隣の美世が声をかけてきた。
「ああっ大丈夫だったよ」
「そう……本当に大丈夫そうだね……よろしい」
 顔を近づけて幸助の頭を押さえ、目をじっと覗き込んでから、美世はうなずく。
「心配かけたな」
「あと、また魔王と一緒にいたでしょ。大丈夫なの?」
「魔王? ああマサキくんのことか」
 どうやら、安西マサキは裏で魔王という仇名で呼ばれているらしい。たしかに、いわれてみれば雰囲気に似合った仇名ではあるかもしれない。自分でもいっつも王を自称してるわけだから。
「そう……悪い噂しか聞かないからね、あの不気味な一年生」
「悪い奴じゃないんだよ、友達だからね」
「こうちゃんがそういうんなら、いいけどね」
 そういって、プイと前を向く美世。マサキは、悪い意味で目立つから一緒にいると注目を集めるのだが、それとは別に、幸助はさっき食堂で、何か意味があるような視線を感じていたのだ。美世が見ていたというのなら、きっとそれだったのだろう。

 退屈な現国の授業。ついていくのにそれほど苦労はない代わりに、それほ面白みもないというのがネックだ。結果として、授業を聞いているという風を装いながら妄想を高めていくことになる。
「あの力を、自由に使えることができたら」
 そう思わずには居られない。
 一度手にしたら、一度感じたら。
 あの兆し、あの気配、時間を除数で削りとり、また乗数で元に戻す力。
「言葉が必要だ」
 発動には、単純な言葉が望ましい。
「……わる」
 言葉と同時に除数をイメージ。
 勢いよく時間を止めてしまったら、またあの爆音の二の舞になる。手綱を離してはいけない。ゆっくりと、ゆっくりとだ。
 腕時計の秒針を見ながら、二分割していくように時を割っていく。耳の奥から、あふれ出る音を抑えつつ、ラジオのチャンネルを合わせるように、繊細に。
 どうやら、音を抑えたままでゆっくりと時間を止めえたようだ。世界の音が止まる。
「かける……」
 ゼロに等しくなった時間を、今度は元に戻し始める。油断すると、耳鳴りが強くなる。ボリュームをちょうどよくあわせるように、ゆっくりと乗数していく。
「よし」
 確信できた、コントロールできる。
 時間を戻すときに一晩かけて数学の課題をしあげた程度の負荷と疲労感はあるものの、これなら十分に使い物になる。
「休み時間に、また試してみるか……」
 わくわくしてきた。誰も知らないけれど、幸助はもうただの落ち零れた高校生ではないのだ。特別な力を持っている。人を殺せる拳銃を始めて手にした少年のように、幸助は力に酔っていた。その高揚感で仄かな不安を押し殺そうとしていた。それは、自分が自分でなくなってしまうほどの、恍惚と不安。

 授業の終わりを知らせるチャイムがなる。教師は出て行く。教室がざわめき始めても、幸助の心は静かだった。目を閉じ、間合いを計り、教室の空気の流れを読むように心を働かす。そうして、また発動。
「……わる」
 ゆっくりと、幸助のイメージの中で時の力が押し込められていく。次に目を開けたときは、すでに止まった世界だった。
 悠然に立ち上がり、向かう先はトイレだった。しかも女子トイレ。学生に掃除をさせない高校のトイレというものは比較的、綺麗だった。造りは男子トイレとほぼ同じだが、空気と雰囲気が全然違う。知らない女子が、洗面台の前で二人並んで化粧を直していた。これはこれで、なかなか普段見られない面白い光景である。
 しばらく、鏡を見つめている女子の表情などを観察していたのだが、本来の目的に気がついて奥の個室に。
「あ、鍵がかかっていたか」
 よく考えれば、当たり前のことだ。考えなしにきてしまったが、こんなのただひっかけているだけの簡易鍵である。ポケットから生徒手帳を取り出して、隙間にひっかけて引っ張りあげると簡単に開いた。
「また別のクラスの女子か」
 罪悪感が薄れるから、それはそれでいい。
 うちの便器は、多分全部洋式でウォシュレットまで着いている。女子だとビデとか使うのかねえ。
 ちょうど立ち上がって、スカートをたくし上げて脱ごうとしているのか穿いたところなのか。両手を、青の縞々は入ったパンツに手をかけた状態で止まっている、これもなかなかいい眺めだなあ。
 しゃがみこんで、下から見上げてみる。少し小柄で胸も小さめっぽいけど、眉をひそめた表情がなかなか可愛い。ここのトイレを使うのは二年だから、この娘も別のクラスの二年なんだろうな。
 ついつい、股の部分に顔を近づけて匂いを嗅いでしまう。
「ほのかにアンモニア臭が」
 下品だけど、なかなか興奮する。自分で脱がしたりすると、元に戻すのに困ったりするので休憩時間に女子トイレに行くことを考えたのだ。
 ちょっと、後ろ髪引かれながらも、隣のトイレに行くことにした。宝箱を開けるみたいで、なかなか楽しい。
「うあっ……これはビンゴ」
 ちょうど、おしっこをしているところにぶちあった。うんこだとちょっと引くと思っていたから、これはもう当たりといっていい。だけど。
「松井菜摘じゃん……」
 うちのクラスの生徒だ。同じクラスになってから二、三回ぐらいしか話したことはないけれどまったく知らない女子というわけでもない。傍目に見れば、喋り方がおっとりとしていて、優しい感じの娘という印象。
 顔は目立たないけど可愛いとは思える程度。いい肉付きというか、ぽちゃまで行かないけど。それに比例するように胸も尻もでかい。さっき自分で触ってみてたしかめたところによると、うちのクラスでは一番の巨乳がこの娘だ。むき出しになっている太ももは、はちきれんばかりの色艶。興奮はするんだが、同じクラスの女子をやってしまって大丈夫なのかと。
「いや……やるって決めたからには」
 午前中の、パンツの中に射精してしまった。あれは情けなかった。だから、今日のうちにちゃんとしておきたいと思っていたのだ。同じクラスの女子だからといって、いや同じクラスの女子だからこそだ。ここは引くべきところではない。
 足を開いて、おしっこをしているところで止まっている菜摘の髪を梳くように撫でてみた。暖かい、さらっとしていてちゃんと暖かいのだ。まるで、時が止まっていても関係なく生きているみたいに。手をすっと下に降ろして胸を触ってみた。かすかに心臓の鼓動がちゃんと聞こえる。不思議だった、時が止まっているはずなのに、ちゃんと身体は生きて動いているのだ。
「どうなっているんだろうな」
 そう思いながら、菜摘の柔らかくて大きすぎる胸を揉む。ちゃんと柔らかいのだって、本当は不思議なのだ。時が止まっているのだとしたら、心臓も止まっているはずだし身体もカチカチのはずなのだ。
「いや……」
 それも、勝手なイメージなのだろう。菜摘のすこしぽっちゃりしたお腹をさすりながら、考える。女子高生なら、もっとへこんだお腹を理想とするのだろうが、自分はこれぐらいが好みだと。健康的でいいじゃないか、柔らかくて気持ちがいい。
 いや、時間停止の不思議の話だった。不思議でも、菜摘の温かくて柔らかい肌触りという現実を受け入れるしかないのだ。たとえば、厳密に科学的に考えるなら時間が止まれば、光も停止しているはずだから網膜が光を受け取らなくて、世界は暗闇に包まれるはずなのだ。
 それでも、じゃあ科学的思考ってなんなのだという話なのだ。科学の原理とか、法則とかは、観測した結果を土台としている。違う結果が観測された途端に、科学の法則は塗り替えられてしまう。つまり、いま目の前に観測されている菜摘の重量感のある揉み心地のおっぱいが……。
「科学的な事実だということだ」
 スカートを上にたくし上げて、太ももに両手をかけて押し広げる。科学的思考で自分のエロ心を押さえつけるのも限界にきていたから。
 おしっこをしている女の子の太ももの間というものは、一言でいえば壮観だった。股の下でおしっこが空中で拡散して飛び散っている。そのままで止まっているのだ。
「うあー、これどうしようかな」
 男のおしっこだと、基本的に一本線なのだが。女子のおしっこというのは、みんなこんなに噴出してるものなのだろうか。性的な興奮も忘れて、一瞬見とれてしまう。空中に飛散している、黄色い液体はきたないものなのだろうが、幸助にはむしろ美しいもののように思えた。
「とりあえず、これをどうにかしないと」
 トイレットペーパーをちょっととって、それに吸い込ませるようにして空中に浮いている液体を吸い取って、便器の中に捨てる。音消しのつもりなのだろう、おしっこしている間にも水を流しているので、こうしておけば時間が動き出せば、紙は流れてしまうだろう。
「ふぅ……」
 ついには、その部分を覗き込む。太ももの間に顔をつっこむようにして。
 女性器、幸助にとっては始めてみるものだった。女子高生だから陰毛が生えているのはあたりまえなのだが、そんなに濃いものでもないのだなという印象。女性器の外側に、薄毛がそよぐように生えているだけなので肝心のオマンコの形はよくわかる。
 空中のおしっこはあらかた取ったのだが、オマンコの周辺には触れていなかったので、女の子のおしっこの穴からはおしっこが噴出したままになっている。
「こういう風に出るのか」
 両手で、外陰唇を押し広げるようにしてみると、女の子のおしっこの穴から噴出している様子がよく分かる。長年の疑問が一つ解けたわけだ。自分でも、吐く息が荒いのがわかる。幸助の興奮は、高まりつつあった。
 立ち上がり、チャックの穴からポロッと、自分の一物とりだす。すでに、自分の息子は痛いほど勃起していた。菜摘は、ちょうど便器に座るような位置どりなので、いまいち体勢がいいとはいえない。
 フェラチオさせるなら、ちょうどいいといえるのだろうが。幸助が執着しているのは、やはりオマンコなのだ。ビンビンに勃起したモノをもてあましながら、しばらく試行錯誤していたが、やはりやりにくい。
 洋式の便座に座る女性は腰を後ろに下げている形になるので、強引に押し上げでもしないかぎり、何かするには無理がある体勢なのだ。
「ふぅ……ふぅ……誤算だったか」
 なんとか、なんとかしたい。そういう思いで、壁に手をついて身体を斜めにするようにして押し付けてみた。幸助の胸板に、菜摘の豊かなバストが当たっている。はからずしも抱きすくめるような形になった。幸助のチンポは、太ももには当たっているのだが、やはりオマンコには届かない。
 これで届いたら、どんだけチンコ長いんだって話になるだろうから。
「まあ、これでいいか」
 きちんと、方向はオマンコに向いている。汚れないようにスカートをたくしあげておいて、あとは菜摘の太ももにこすり付けるようにして、自分を高めていく。
「ふぅ……うっ」
 はじけるようにして、射精した。自分で射精したところを見るのは久しぶりだった。思いっきり、菜摘のオマンコに向かって出したので、ピュ! と飛んだ精液が菜摘のオマンコを汚していく。
 股の下の便器に落ちたり、ちょっと上に跳ねたりもしたが、まあまあ命中という感じだろう。
「ふぅ……」
 なにか興奮して、指で精液の付着したオマンコを触ってみた。何故か、おしっこの穴の中に精液を刷り込むようにして、押し付けていく。噴出しているおしっこと、精液が混じりあうのが何かとてつもない満足感だった。
 ただただ心地よい疲労感を感じながら、自分のチンコをまたトイレットペーパーで吹いて、スカートにちょっと跳ねてしまったのを拭いて。少し名残惜しかったが、オマンコにドロッと付着したのも拭いた。
「この程度で、妊娠とかは……まあしないだろうな」
 精液を拭いた、トイレットペーパーをやはり便器の中に捨てながらも、考える。
 菜摘は処女なのだろうか。経験がない幸助には、そういう見分けがつかないし、よく知らないクラスの女子に彼氏がいるとかいないとか、そういうこともまったく分からないから考えてもしかたがないのだが。
 スカートをなるべく元に戻して、復元に努める。菜摘の足の下に引っかかっている白いパンツがエロスだった。こういう時の女の子の微妙に緩んだ表情とかは、きっと自分以外の誰も見ることは出来ないのだと思うと、とても満足した。
 鍵はしかたがないのがそのままで、閉め忘れと思ってくれるといいのだが。

 教室に戻り、静かに心を落ち着ける。
「かける……」
 ゆっくりと、ゆっくりと。ゆるやかに登る光の階段をイメージしながら。時を、乗数していく。
 次第に、教室の喧騒に戻っていく。いつもの休み時間だ。しばらく待っても、何事もなかったように進んでいく時間。女子トイレのほうから騒ぎの声が聞こえるとか、そういうこともない。大丈夫と分かっていてもほっとしてしまう。
「……こうちゃん……こうちゃん!」
「……おおうっ」
 どうやら、授業終わったらさっさと教室からいなくなっていた隣の席の美世が、いつのまにか戻ってきて、こっちに声をかけてきたようだ。
「なにがおおうっよ。なんかすっきりしたって顔してるね」
「そっ……そうか?」
「なんだろう無駄に爽やかな感じ、その割りにボケッとしてるね」
「……あっ」
 そのとき、教室に松井菜摘が入ってきた。なんとか叫びだすのを抑えたが、しっかりと目があってしまったのは幸助にとっては、不意打ちだった。胸を熱くする罪悪感と、ばれないかという不安。背筋がゾクッと冷えて、汗をかいた。
 こっちの変な視線に気がついて、菜摘は不思議そうに見つめ返してきたのだが、すぐに窓側の自分席にいってしまった。それを視線で追おうとする自分の首をなんとか押さえつける。妙なリアクションは控えないと、別に何も気がついてなければ、それでいいんだから。
「なに! なにいまの……菜摘ちゃん!?」
「いやっ、いやなんでもないよ」
「いまのが、なんでもないわけないでしょ!」
 なんかものすごい勢いで、美世に問いただされた。「なんでもない」としか言いようがないので、それで押し通したのだが、自分のさっきのリアクションはそんなにおかしかったのだろうか。ただ一瞬、変に視線が絡んだだけだというのに、休み時間が終わるまで、延々と追求された。
 何が原因で、自分の悪戯がばれてしまうかもしれないと思うと恐ろしくなる。いつも近くにいて自分をよく知っている美世は一番ばれたくない相手といえる。時間停止と共に、ポーカーフェイスも練習すべきかもしれない。


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おかげさまでプロの小説書きになりました。ちょっと忙しくなるのでご迷惑をおかけするとおもいますが、月一更新を目標にやっていこうと思いますので、今後ともよろしくおねがいします。



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