| 第三章「うまくできない」 |
次の日の朝、パンツ交換の時刻……そう勝手にマサキが定めている午前九時にちゃんと起き出した。玄関の中まで、ズカズカとやってきたマサキに鶴奈が差し出したのは、洗濯でヨレヨレになっているベージュのパンティーだった。握ってみると、温かみはあるが材質もナイロン生地だし、とにかく普段の鶴奈のパンツよりも格が落ちている。せっかく今日もたっぷりと出してやったのに、性的なアピールが足りないと少し不満に思うマサキだったが、ふと思いついて聞いてみた。 「鶴奈さん、もしかしたらぼくに汚されても良い安物のパンツを差し出してないですか」 何事も素直に答えると催眠をかけられている鶴奈だ。 「うーん、そうなのよね。やっぱりお気に入りは、汚されたくないし。もちろんパンツの交換は当たり前だからしてもいいんだけどね……だけど、マサキくんがもういいっていうなら止めない?」 そういわれて、止めると答えるわけが無い。 「さあ、今日も交換ですから汚してきた昨日のパンツを穿いて生活してください」 そう断言されると、無言で顔を下に向けて汚されたパンツを黙って穿く鶴奈に安心はしたが。昨日よりも催眠が弱まったということなのか、それとも一日考えて常識が催眠を押し返して来てしまったのか。どっちにせよ、これは試作品でどう転ぶか分からない代物なのだ。失敗をきっかけにして、なにやら暗雲が立ち込めてきたような空気である。深追いは禁物だと思い、その日はこれで帰ることにした。 うまくいかなくてムシャクシャした気持ちをぶつけるように、自分の部屋でベージュのパンツを乱暴に犯す。二回ほど射精すると、気もおさまってきた。 いま学校は中間テストの時期に入っているはずだ、ツバメは今日も早く帰ってくる。昨日より遅い時間に催眠をかければ、十分二十四時間経ってるということだし、今日はツバメとセックスできるかもしれない。なにせマサキとツバメは恋人同士なのだから。そう思い直すと、心がうきうきしてくるのを感じる。 昨日の失敗を繰り返すことなく、十分な時間を置いて鳥取家に行くと、ヒナもツバメもちゃんと家に帰っていた。寄り道もせずに二人ともいい子たちだ。ヒナの頭をなでてやると、ヒナも嬉しそうに「ありがとう、マサキお兄ちゃん」と言ってくれる。子供は素直でいい。 いくらツバメの恋人と暗示をかけていたとしても、ヒナの目に映るマサキの容姿のデブオタのままだから、ツバメの恋人に対する純粋な好意と思えて、さらにヒナを可愛く思うマサキだった。 「さあ、恋人同士の語らいをしに君の部屋に行こうか!」 やる気満々で、ツバメを誘うマサキ。 「う……うん」 なにやら沈んだ様子で、それでも逆らわずにツバメは着いて来た。さてと。 「恋人同士だから……その、恋人らしいことをやろうか」 そういって、マサキがツバメに手を伸ばすと 「だめ! キモイ! 触らないで!」 激しく抵抗される。恋人に向かってキモイはないだろう。そうマサキが声を上ずらせながらも、あわてて抗議すると。 「ごめんなさい……まだ付き合ったばかりだし、付き合ってるからってそういうのは駄目だと思うの」 それが、ツバメの言い訳だった。もちろん、ただの言い訳で生理的拒否をしているに過ぎない。ほんとに催眠なしで、恋人同士だったとしたらマサキはこういわれたらどうしようもないだろう。しかし、いまのマサキには催眠の術があった。 「ああ……そうだね、こっちこそごめん」 そういう風にある程度抵抗してくるのは予測済みだ。こっちには、催眠タイムウオッチがあるんだよ。そう思って、満面の笑みでボタンを押す。 やはり頭が、ちょっと痛いが、昨日ほどの激痛もなく数秒で脳から目にかけて電流のようなものが流れる。マサキの催眠術師化完了。 「さあ、君は恋人のマサキくんに何でも素直に答えるよ」 「マサキくんに……なんでも素直に答える」 「恋人のマサキくんに何でもしてあげたくなるよ」 「なんでも……して、あげたく…………なる」 ちょっと、間があったな。 「恋人のマサキくんとセックスしたくなるよ」 「マサキくんと、セックス……駄目……セックスは駄目!」 突然、トロっとしていた目が反転して意志の輝きを見せ始める。どうなってんだ一体、どっかでミスったのか、それとも機械の故障か!? マサキは完全に狼狽してしまい、どうしていいか分からなくなった。ただ、機械的にマサキを催眠術師にしている脳と目は、冷静に抵抗するツバメを催眠の状態に抑え込んではいてくれた。 「駄目……セックスは絶対駄目……」 そうつぶやき続けるツバメを落ち着かせる方法が思い浮かばなくて。 「うん、無理にセックスしなくてもいいよ」 そう言ってやるしかなかった。そう言ってあげて、ようやくツバメは落ち着いたのである。催眠を一回分無駄に使ってしまったも同然だ。絶対できると思ってたのに、ツバメのでかいおっぱいを目の前にして、この高鳴る性欲をどうしたらいいんだ。 しかし、そうは思っても、催眠後の催眠術が使えない状態でツバメが暴れだして、ヒナや鶴奈が感づいて部屋に飛び込んでくるとか最悪のケースを考えると長居するわけにはいかない。 後ろ髪を引かれるような思いで、ツバメの部屋を退出するとさっさと家に帰って、ネット探偵にすごい剣幕でメールを送った。すると、さすがにこっちの怒り狂った様子に見るに見かねたのか、向うもメッセンジャーで直接対話してきた。 「どうして、催眠術なのにセックスできないんですか!」 単刀直入に怒りをぶつけてくるマサキに、ネット探偵も呆れ気味であった。 「君は、催眠を魔法かなにかと勘違いしているようだね」 まあ、そこはネット探偵は大人なのでそういってマサキを諭す。 「催眠はあくまで、暗示をかけるだけなんだ。強い抵抗がある行為は拒否されて当然だろう」 「……でも、鶴奈と精子パンツを交換はできましたよ」 「それは、彼女が既婚者で性的な経験も豊富にあって、精子が付いたパンツを穿いても別に妊娠する危険はほとんどないことを知っていたからだろう。君が、妊娠の危険もある中出しセックスをしようとすれば、彼女だってやはり拒否したはずだ 「そんな……じゃあ、催眠は何のためにあるんですか」 メッセンジャーでの会話だが、向うのため息が聞こえそうな間があったあと。 「少なくとも、君のいま考えている短絡的なやり方のためには存在しないな」 マサキが黙っているとさらに続ける。 「まあ、君はまだ中学生だから催眠術に話術が必要だと言っても理解しにくいだろうね。相手に抵抗があったら、いったん引いて違う攻め方を試してみるんだよ」 「違う攻め方?」 「そう、引田博士によるとその催眠タイムウオッチは同じ対象に繰り返し使うことによって暗示力が高まるそうなんだ。ただ、相手の抵抗がとても強い場合は、それでも強制力が足りないだろう」 「じゃあ、どうすればいいんですか」 「時に、一緒に同封した催眠マニュアルは読んだかね」 「文章が難しくて、必要な箇所だけは読んだんですけど」 「辞書を引いてでも全部読みなさい、答えはその中にあると思うよ」 「そうですか」 聞いてもいちいち面倒臭いから、噛み砕いて教えてくれないということなんだろう、中二のマサキにもそれぐらいは分かる。 「君の成長を祈るよ、そうすれば成果もあがってくる」 マサキは、強い性欲にせきたてられるようにパソコンで辞書を引きながら、難しい漢字の多い催眠マニュアルの本論の部分を、分からないなりに読み進めていくことにした。全ては、鳥取ツバメとのセックスのためであった。
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